奉公衆

奉公衆とは

奉公衆（ほうこうしゅう）は、室町幕府に整備された将軍直属の軍事組織であり、幕府官僚の一翼を担いました。彼らは、将軍に近侍する御家人であり、平時には御所に出仕し、有事には将軍の軍事力として機能しました。奉公衆は、守護大名とは異なり、将軍直轄領の管理を任され、独自の権限を有していました。その出自は、有力御家人や足利氏一門、有力守護大名、地方国人など多岐にわたり、その構成は複雑でした。

奉公衆の概要

奉公衆は、鎌倉時代の御所内番衆の制度を継承しており、将軍に近侍する御家人として、一般の御家人や地頭とは区別されました。奉行衆が文官官僚であるのに対し、奉公衆は武官官僚としての役割を担いました。奉公衆は、平時には御所内の番内に出仕し、有事には将軍の軍事力として機能しました。また、地方の御料所の管理を任され、所領地の守護不入や段銭の徴収、京済などの特権を持っていました。これにより、奉公衆は守護大名から自立した存在となり、その領国形成の障害となることもありました。しかし、在地の奉公衆の中には、現地の守護と従属関係を持ち、親幕府派として行動する事例も見られました。

奉公衆の構成

奉公衆の成員は、有力御家人、足利氏の一門、有力守護大名や地方の国人などから選ばれました。福田豊彦の研究によれば、その構成は大きく分けて3つの層に分類できます。

1. 足利一門および守護大名家の庶流: 土岐氏の斎藤妙椿のような有力被官を含む。
2. 根本被官・家僚: 足利将軍家の古くからの家臣。
3. 地方の有力国人領主。

また、地域的には近江国、美濃国、尾張国、三河国、摂津国や北陸、山陽、山陰地方の出身者が多く、摂津以外の畿内出身者は少ないという特徴がありました。

近衆番と小袖番

奉公衆は、近衆番と小袖番に分かれていました。それぞれの役割や具体的な違いについては、史料が限られており不明な点も多いです。

番帳

室町幕府には、奉公衆の出仕勤番を記録した番帳（番文）がありました。8代将軍足利義政時代の『御番帳』によると、奉公衆は五番編成で、各番の兵力は50人から100人、総勢で300人から400人ほどでした。各番が抱える若党や中間を含めると、平均して5,000人から10,000人規模の軍事力だったと考えられています。なお、鎌倉公方や古河公方にも奉公衆が編成されていたとされています。奉公衆は、所属する番ごとに強い連帯意識を持ち、応仁の乱などでは共同して行動しました。

奉公衆の沿革

成立

奉公衆の原型は、室町幕府初期、3代将軍足利義満が守護大名に対抗するために整備した親衛隊である御馬廻に求められます。具体的な成立時期については研究者の間でも意見が分かれていますが、永和から永徳年間（1375年頃～1384年）にかけて原型が作られ、応永の初頭には後世に知られる形が整ったと考えられています。彼らは、山名氏が蜂起した明徳の乱や大内義弘が蜂起した応永の乱などで活躍しました。

発展

4代将軍足利義持の時代には、まだ守護大名の軍事力に依存する部分がありましたが、6代将軍足利義教は義満の政策を継承し、さらに強権を目指しました。9代将軍足利義尚は、文官である奉行衆と共に奉公衆を制度として確立していきました。文明17年（1485年）の奉行衆との抗争の際には、奉公衆を支持し、その信望を集めました。長享・延徳の乱では、奉公衆が将軍の親衛隊として活動しています。

衰退

10代将軍足利義材（義稙）は、奉公衆を率いて六角氏討伐や畠山氏討伐を行いましたが、明応の政変により奉公衆の制度は事実上崩壊し、形骸化していきました。その後、11代将軍足利義高（義澄）や義材も自派の奉公衆の立て直しに努めましたが、その力は衰退しました。12代将軍足利義晴の時代には、没落した守護大名の庶流家に代わって大舘氏や佐々木流細川氏が番頭になった形跡が見られます。

終焉

13代将軍足利義輝が殺害された永禄の変後、14代将軍足利義栄、15代将軍足利義昭の時代には、奉公衆は分裂し、その影響力を失いました。織田信長による足利義昭の追放により、奉公衆は完全に崩壊し、その称号も廃止されました。しかし、奉公衆の結束力は幕府終末期まで続き、その後も明智光秀の中心的な家臣として旧奉公衆が参加するなど、歴史に名を残しました。

奉公衆の構成員

奉公衆は、以下のような人々によって構成されていました。

有力御家人
足利氏の一門
有力守護大名の庶流
地方の国人領主
足利将軍家の古くからの家臣

まとめ

奉公衆は、室町幕府において将軍直属の軍事力として重要な役割を果たしました。彼らは、将軍の警護や軍事行動だけでなく、御料所の管理も担い、幕府の重要な一翼を担いました。その変遷は、室町幕府の盛衰と密接に結びついており、その歴史を理解することは、室町時代の政治や社会を理解する上で不可欠です。

参考文献

木下聡「室町幕府奉公衆の成立と変遷」『室町幕府の外様衆と奉公衆』同成社、2018年。
岐阜市編『岐阜市史』《通史編原始・古代・中世》岐阜市、1980年。

関連項目

管領
申次衆
見聞諸家紋

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