軍法

軍法：軍隊における独自の法体系

軍法は、軍隊の構成員に適用される特殊な法体系です。国家ごとに内容が大きく異なるものの、成文法と慣習法によって構成されています。軍隊に属する者や捕虜が犯した犯罪を処罰するための法として、軍刑法と呼ばれることもあります。軍法を適用する裁判所は軍法会議と呼ばれ、そこで犯罪の裁きが行われます。

軍事犯罪と一般犯罪

軍法で規定される犯罪は、大きく分けて軍事犯罪と一般犯罪の2種類に分類されます。

軍事犯罪: 軍事行動に関連する犯罪です。職務放棄、敵前逃亡、命令違反、利敵行為などが含まれます。軍事犯罪は、軍人以外の一般人が処罰対象となることはなく、軍法以外の法には規定されません。
一般犯罪: 軍事行動に関連しない、通常の犯罪です。殺人、強盗、強姦などが含まれます。一般犯罪は、軍人だけでなく一般人も処罰対象となり、通常の刑法にも規定されています。しかし、同じ行為であっても、通常の刑法と軍法で定められる罰則は異なることが多いです。

軍法には、軍事犯罪と一般犯罪の両方を規定する場合と、軍事犯罪のみを規定する場合があります。前者の場合、軍人の犯罪には軍法のみが適用され、通常の刑法は適用されません。後者の場合、軍人が軍事犯罪を犯せば軍法が、一般犯罪を犯せば通常の刑法が適用されます。

軍法会議と司令官決裁

軍法会議は、軍法違反の容疑者に対して行われる裁判です。平時においては、軍法会議の前に査問委員会が開かれる場合があり、そこで違反に該当しないと判断されれば、軍法会議は開かれず、不起訴処分に相当する扱いとなります。

軽微な違反については、司令官決裁という手続きが取られることがあります。これは、減給や奉仕命令などの内部規則に基づく処罰であり、軍法会議による刑罰とは異なります。映画などで見られるような、軽微な違反に対する便所掃除などの罰は、この司令官決裁によるものです。例えば、えひめ丸事故の際には、原子力潜水艦グリーンビルの艦長が司令官決裁で減給処分を受けましたが、軍法会議は開かれていませんでした。アメリカ軍では、現在、全軍共通の統一軍事裁判法(Uniform Code of Military Justice)が適用されています。

軍法による刑罰

軍法による刑罰は、通常の刑法よりも厳しいことが多いです。戦時下においては、懲罰部隊への配属という刑罰が科せられることもあります。これは、前線で戦死するよりも軍刑務所へ収監された方がましだと考える兵士が出ないようにするための措置、あるいは戦時における軍法違反者の増加に対応するための措置と考えることができます。

軍法による指揮官の権限

部隊指揮官は、軍法によって部下に対して命令や処罰を行う権限を有しています。しかし、この権限は任務遂行のための命令に限られ、私的な利用は認められていません。また、命令に対する責任は、命令者だけが負い、実行者は責任を負わないという特殊な責任分担が適用される場合もあります。部隊指揮官は、軍法会議の招集権限も有しています。

その他

軍法とは別に、軍律という占領地に対する規則も存在します。また、『日本書紀』には、神功皇后が軍に発令した言葉の中に、現代の軍法や戦時国際法に通じる内容が含まれているとされています。これには、暴行や強姦の禁止、投降者の保護、敵前逃亡への処罰などが含まれています。ただし、史実としての信憑性については、別途検証が必要です。

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