転倒

転倒（てんとう）とは

転倒とは、身体がバランスを崩し、意図せず地面や床などの低い場所に倒れてしまうことを指します。

転倒の定義

転倒の定義は、研究や臨床の現場によって異なり、統一されていません。代表的な定義として、以下のものがあります。

FICSIT (Frailty and Injuries: Cooperative Studies of Intervention Techniques)：意図せずに地面、床、またはその他の低いレベルに倒れること。家具、壁、またはその他の構造物に寄りかかることは除く。
Kellogg International Work Group：人が意図せず地面に倒れる事象。研究や予後の目的によっては、意識喪失、麻痺の発症、てんかん発作、または移動中の車両との衝突に起因する転倒は定義から除外することが望ましい。

これらの定義の大きな違いは、FICSITが失神を含むのに対し、Kellogg International Work Groupは失神を除外している点です。

転倒の疫学

日本における65歳以上の地域在住高齢者では、約20%が1年間に1回以上転倒を経験すると報告されています。入院・入所者では約40%、脳卒中患者では約60%と、転倒率はさらに上昇します。また、転倒者は男性よりも女性に多い傾向があります。

転倒による外傷は、軽症を含めると約50〜70%に発生し、骨折などの重大な外傷は約1割以下とされています。しかし、大腿骨頸部骨折患者の原因調査では、約85%が転倒を原因としていることが明らかになっており、転倒予防の重要性が示唆されています。

転倒が発生しやすい時間帯は、入院・入所者では午前6〜7時のトイレや食事など活動性が高まる時間帯、地域在住高齢者では午前10〜11時の外出時が多いとされています。

転倒の要因

転倒の要因は多岐に渡りますが、主なものとして以下のものが挙げられます。

身体的特徴

地域在住高齢者：筋力低下、転倒の既往、歩行障害、バランス障害
施設入所者：筋力低下、バランス障害、歩行障害、歩行補助具の使用

薬剤の影響

複数の薬剤を服用している場合、転倒リスクが高まる可能性があります。特に、『利尿剤』＋『NSAIDs』＋『安定剤／睡眠薬』の組み合わせは、転倒リスクが非常に高くなると報告されています。

その他の要因

路面凍結時のスリップなどの外的要因も、転倒を引き起こす可能性があります。

転倒の状況

転倒者の特徴として、屋内での歩行中につまずくケースが多いことが挙げられます。屋内での転倒は6割以上を占め、そのうちの6割が歩行中のつまずきによって発生しています。また、立ち上がり動作時のスリップや、歩行・立位での方向転換も転倒を生じやすい要因となります。

転倒方向によって、合併症のリスクも異なります。

前方への転倒：比較的若い年齢層に多く、橈骨遠位端骨折を生じやすい。
側方または後方への転倒：歩行速度が低下した高齢者に多く、腰椎圧迫骨折や大腿骨頸部骨折を生じやすい。

転倒リスク評価

転倒リスクを評価する方法は数多く存在します。

STRATIFY
Morse Falls Scale
Functional Reach Test
Timed Up & Go test
Berg Balance Scale
Dynamic Gait Index

病院や施設での転倒リスクを軽減するには、多職種間の連携が不可欠です。

最新の研究

近年、転倒における二重課題の影響が注目されています。歩行中に話しかけられた際に、立ち止まったり歩行速度が低下する人は、その後の転倒リスクが高いことが報告されています。このテストはStops Walking When Talking testと呼ばれ、臨床現場でも有用です。

また、運動療法が高齢者の転倒予防に有効であるという報告もなされています。膝をついたり、立ったり、這ったりする運動は転倒予防に効果的です。ただし、運動をやめた後は、転倒予防効果が期待できないとされています。

参考文献

『転倒予防医学百科』 武藤芳照編集, 日本医事新報社, 2008.
『高齢者の機能障害に対する運動療法』 市橋則明編集, 文光堂, 2010.

関連項目

骨折
外傷

もう一度検索