軽井沢町旧スイス公使館

軽井沢町旧スイス公使館：歴史と謎に包まれた建物

軽井沢町旧スイス公使館は、第二次世界大戦末期にスイス公使館として使用された、長野県軽井沢町にある歴史的な建造物です。この建物は、単なる建物としてだけでなく、終戦前後の国際情勢や軽井沢の歴史を今に伝える貴重な存在として知られています。

概要

1933年（昭和8年）に実業家の前田栄次郎が軽井沢に土地を購入し、日本初の貸別荘地「前田郷」を開設しました。1942年（昭和17年）には、前田郷の別荘の一つとして「深山荘」が建設されました。この深山荘が、後にスイス公使館として使用されることになります。

1944年（昭和19年）夏、連合国軍による首都圏への空襲が予想される中、日本政府は在京外国人を軽井沢へ疎開させるよう指示しました。これを受け、カミーユ・ゴルジェ公使率いるスイス公使館が深山荘へ移転しました。スイス公使館は、日本が降伏し外交権を失う1945年9月まで軽井沢に置かれました。当時、軽井沢の住民は外国人との交流に慣れており、公使館やスイス人コミュニティを温かく迎え入れたと伝えられています。

1967年（昭和42年）から2006年（平成18年）まで、東京電機大学の学生寮として使用されましたが、大学側は建物の歴史的価値を尊重し、大規模な改修は行いませんでした。しかし、老朽化と利用者の減少により、大学による維持が困難となり、2007年（平成19年）には売却・更地化の計画が持ち上がりました。町の保存見送りもありましたが、保存を求める署名運動などにより解体計画は中止され、2008年（平成20年）に軽井沢町の所有となりました。2015年（平成27年）1月27日には、本館が軽井沢町指定有形文化財に登録されています。

終戦時の謎

このスイス公使館からは、1945年8月10日にポツダム宣言受諾の打電が連合国側へ送られたとされていました。しかし、当時の外務省軽井沢事務所長であった大久保利隆は、晩年にこの説を否定しています。一方、ゴルジェ公使をはじめとするスイス外交当局から、終戦直前の2ヶ月間に19通もの「イミュニテ カルイザワ（軽井沢を爆撃しないでほしい）」という電報が連合国側へ送られていたことが判明しています。筑波大学教授の花里俊廣は、この電報が「国体（皇室）をつぶすな」という意味で使用されていた可能性を示唆しており、もしそうであれば、中立国スイスがゴルジェ公使を通じて米英に「国体護持」の可能性を打診し、和平交渉を行っていたことになります。これは、昭和天皇が終戦を聖断した根拠の一つになったとも考えられます。

軽井沢町誌には、家主であった前田栄次郎が15日以前に終戦を知り、フランス、チェコスロバキア、オーストラリアの公使館で盛大なパーティーが始まったことが記されています。軽井沢の住民は、誰よりも早く敗戦の事実を知らされていたのです。

施設

建物は、敷地面積2100平方メートル、延床面積485平方メートルの2階建てです。1階には厨房やボイラー室、使用人の部屋があり、2階中央の八角形のホールの両脇には宿泊者用の部屋（ベランダ付き8畳の洋間5室、6畳洋間5室、6畳日本間5室）が設けられています。

所在地

〒389-0102 長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢字深古屋1369-21

周辺施設

旧三笠ホテル
有島武郎終焉地碑
軽井沢聖パウロカトリック教会
脇田美術館

軽井沢町旧スイス公使館は、歴史的な背景と美しい建物を通じて、軽井沢の魅力を伝えています。訪れる人々は、この場所で過去の出来事に思いを馳せ、平和の尊さを感じることができるでしょう。

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