軽王子と衣通姫

軽王子と衣通姫

『軽王子と衣通姫』は、著名な作家三島由紀夫による短編小説であり、二章から構成されています。この作品は、禁忌の愛に苦悩する叔母と甥の物語を描いており、その愛の行き着く先には死が待ち受けています。物語は、古代の日本の神話に根ざした「衣通姫伝説」を基に構築されており、非常に詩的な表現と深い感情が込められています。

この物語は、戦後の日本を生きた三島の心の内面と、彼の虚無感を反映しています。禁じられた愛に殉じることで、天上の世界に戻るという貴種流離譚として展開されます。具体的には、主人公である軽王子と衣通姫の禁断の愛が描かれ、彼らの心の葛藤や絶望が表現されています。

物語の背景と発表経緯

『軽王子と衣通姫』は1947年に文芸雑誌『群像』に発表され、その後、『岬にての物語』として単行本化されました。この時期、三島は自身のプライベートな喪失や、時代の変化に対する戸惑いから深い悲しみを感じていました。特に、彼の妹の死からくる感情が、物語の中に色濃く反映されています。また、当時の日本はGHQの占領下にあり、社会全体が変革を余儀なくされていました。

三島は、この作品の執筆動機として「たえまない渇き」を挙げ、そこから生まれる表現が、自身の創作を駆り立てる原動力となったと語っています。彼にとって、作品を書くことは、自分自身の存在感を取り戻すための手段だったのでしょう。

登場人物とその関係

物語の主な登場人物には、軽王子、衣通姫、そして彼らを取り巻く家族や側室たちがいます。特に、軽王子は伝説的な美しさを持ち、彼の愛の対象である衣通姫は皇后の妹としての立場を持っています。この2人の間には、禁断の愛が芽生えますが、周囲の人々はそれを許さない立場にいます。

また、物語には相反する立場の穴穂皇子や大前小前も登場し、彼らとの関係が物語に緊張感を与えています。設定には『古事記』と『日本書紀』の両方が影響を与えており、三島は後者の「甥と叔母」という設定を採用しました。これは、彼自身の家族への思いも影響していると考えられます。

物語の概要

物語は、崩御した天皇の陵に衣通姫が訪れるシーンから始まります。彼女は、息子である軽王子を追うため、過去の思い出に浸ります。二人は互いの心の中で苦しみ、愛し合うことの禁忌に苦悩しながら、最終的には死を選ぶという悲劇的な運命にたどり着きます。その姿は、絶望と渇望が交錯したものであり、愛のために自ら命を絶つ選択をするのです。

作品の評価

『軽王子と衣通姫』は、当初、読者から好評を得ましたが、文壇からは若干の冷淡さも受けました。批評家たちは、この作品を歴史的でありながらも現実的な側面を持ち合わせていると評価し、三島の独特のスタイルと彼の主題についての探求は高く評価されました。

この作品では、愛と死が織り交ざりながら、禁忌を犯すことの美しさと恐ろしさが表現されています。美しい言葉と詩的な表現に満ちた『軽王子と衣通姫』は、三島由紀夫の文学の中で特別な位置を占めており、後の作品や社会に深い影響を与え続けています。

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