輝く日の宮

輝く日の宮：源氏物語の謎めいた失われた巻

『源氏物語』において、かつて存在したとされるものの、現在では失われてしまったとされる巻、「輝く日の宮」。その存在をめぐっては、長年にわたり様々な議論が交わされてきました。本稿では、「輝く日の宮」に関する諸説を詳細に検討し、その謎に迫ります。

「輝く日の宮」とは何か？

「輝く日の宮」の位置は、「桐壺」と「帚木」の間にあったと推測されています。巻の内容については、いくつかの説が存在します。

桐壺の巻の異名、もしくは桐壺の巻の一部を独立した巻として捉えたもの
光源氏と藤壺の最初の出会いや、光源氏と六条御息所の関係、朝顔の斎院の初登場など、現行の本文では触れられていない重要なエピソードが含まれていた可能性
「帚木」以降に登場する人物の、以前のエピソードが記述されていた可能性

これらの説は、文献学的根拠や物語全体の構成を考慮することで裏付けられています。しかし、「輝く日の宮」が本当に存在したのか、そしてもし存在したならばなぜ失われたのかという疑問は、いまだ解明されていません。

存在を示唆する証拠

「輝く日の宮」が存在したとする根拠は、大きく分けて文献学的根拠と物語構成上の根拠の2つがあります。

文献学的根拠

古い文献の中には、「輝く日の宮」の巻名を挙げるものがあります。例えば、藤原定家の『奥入』では、「桐壺」の次に「輝く日の宮」を挙げ、その後「この巻もとより無し」と記しています。また、『無名草子』など、現存する巻数よりも多い巻数を『源氏物語』に認める文献も存在します。

物語構成上の根拠

現行の『源氏物語』では、後の展開に重要な影響を与える出来事が描かれていない箇所があり、それらのエピソードを補うことで物語の整合性がより高まると考えられています。これらの欠落しているエピソードは、「桐壺」と「帚木」の間に位置するのが自然であると推測されています。

消失の謎

「輝く日の宮」が存在しなくなった理由についても、いくつかの説があります。

作者の意向、もしくは関係者の判断による削除
写本作成過程での脱落

特に、作者の意向による削除説は、「雲隠」の巻に関する伝説と比較されることがあります。「雲隠」は、光源氏の死を描いた巻とされ、あまりにも悲しいため天皇の命によって破棄されたという伝説があります。「輝く日の宮」についても、何らかの理由で削除された可能性が指摘されています。丸谷才一は、藤原道長の意向を受けて削除されたのではないかと推測しています。

「輝く日の宮」不存在説

一方で、「輝く日の宮」はそもそも存在しなかったとする説も存在します。その根拠としては、

本文が全く残っていないことのおかしさ
巻名の命名法が他の巻と異なっていること
欠落していると思われるエピソードは、作者が意図的に省略した可能性があること

などが挙げられます。この説では、「輝く日の宮」は後世に創作された可能性が示唆されています。

その他の説と補作

「輝く日の宮」をめぐっては、他の解釈も存在します。例えば、

現在の「桐壺」の巻の別名であるという説
「桐壺」の巻の一部が独立した巻であったという説

などがあります。また、「輝く日の宮」の欠落を補う試みとして、多くの作家が作品を発表しています。例えば、本居宣長の『手枕』、丸谷才一の『輝く日の宮』、森谷明子の『千年の黙 異本源氏物語』、瀬戸内寂聴の『藤壺』などが挙げられます。

結論

「輝く日の宮」の謎は、未だ完全には解明されていません。文献学的証拠、物語構成上の推測、そして様々な創作作品が存在する中で、この幻の巻は、私たちに『源氏物語』の奥深さと、その解釈の多様性を改めて考えさせる存在であり続けています。今後の研究によって、さらなる事実が明らかになることを期待したいものです。

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