輪廻 (ジャイナ教)

ジャイナ教における輪廻（サンサーラ）

ジャイナ教において、輪廻（サンスクリット語: संसार, Saṃsāra）とは、存在が様々な領域で生と死、そして転生を繰り返す終わりのないサイクルを指します。この輪廻は苦しみと悲しみに満ちていると考えられ、非常に厭わしいものとして捉えられています。そのため、輪廻に囚われた状態から抜け出すことが非常に重要な目標とされています。

輪廻と転生

ジャイナ教の経典では、輪廻は死と再生が永遠に繰り返されるサイクルとして記述されています。例えば、「ウッタラーディヤーナ・スートラ」には、輪廻における生き物の状態が以下のように描写されています。

「世界には多くの生きものが住んでいて、彼らは輪廻において、（過去に）為した様々な行為により、様々な家族・カーストに生まれる。その行為に合わせて、神の世界に行くこともあれば、地獄に行くこともあり、阿修羅になることもある。クシャトリヤに生まれることもあれば、カンダーラやブッカサに生まれることもあり、蛆虫やガに生まれることもあればクントゥ(と呼ばれる虫)やアリに生まれることもある。かくのごとく、罪深き行為をなした生きものは永久に生まれ変わりを繰り返すばかりで、輪廻に嫌気がさすことなどなく、彼らは戦士のように（生の戦いに飽くことがないので）ある。」

この記述から、輪廻においては、生物は過去の業（カルマ）によって、様々な形態や境遇に転生することがわかります。

マハーヴィーラの考える輪廻

ジャイナ教の重要な指導者であるマハーヴィーラは、輪廻を苦しみと悲惨に満ちた状態として捉えていました。彼の最後の言葉とされる「ウッタラーディヤヤナ・スートラ」には、以下のように輪廻の苦しみが強調されています。

「真理を知らない人は皆、苦悩を免れない。終わりなき輪廻の中で彼らは様々な方法で苦しむ。そのため束縛や誕生へ導く道をよく考えている賢者は自ら真理を探し求め、全ての生きものに優しくあるべきである。」

「私はどのような行いによって、不安定で変化しつづけ、苦しみに満ちた輪廻において、悲惨な宿命から逃れられるのだろうか?」

「かくのごとく魂は自身の不注意さによって苦しみ、善いカルマや悪いカルマによって輪廻に振り回される。ガウタマよ、何につけても注意深くあれ。」

「誕生は苦しみだ、年を取ることは苦しみだ、病も死ももちろんそうだ、ああ、輪廻の中には苦しみしかない。その中で人は苦悩し続ける。」

これらの言葉から、マハーヴィーラは輪廻を苦しみの根源とみなし、そこからの解放を切望していたことがわかります。

苦しみと悲しみの場としての輪廻

輪廻は「バヴサーガラ」、すなわち再生の海として表現されることもあります。この海を渡り切り、解脱という岸にたどり着くことが理想とされます。そのためには、正しい知識、信仰、そして実践（三宝）が不可欠であるとされます。

「『三宝』に恵まれた魂は素晴らしい浅瀬を作る。三宝(正しい信仰、知識、規範)という聖なる船の助けを借りれば転生のサイクル(輪廻)の海を渡ることができる。」

ティールタンカラ（祖師）たちは、自ら輪廻の海を渡って解脱を達成し、人々にもその道を示しました。そのため、彼らは「浅瀬を作る者」という意味を持つティールタンカラと呼ばれます。「アーチャーランガ・スートラ」には、ティールタンカラたちがどのように輪廻の海を渡ったかが記されています。

「先年には長い間歩き続けていた偉大な英雄(すなわちティールタンカラ)、尊い人々が(上記の)問題を生み出す。彼らは完全な知識を授かり、細腕にごくわずかな血肉を持っている。罪を犯すのをやめた彼は(輪廻を)渡り解脱して、(行為をなすことを)やめる。」

魂の分類

ジャイナ教では、魂は基本的に輪廻からの解放の有無によって分類されます。つまり、解放された魂（シッダ）と、輪廻に囚われた魂とに分けられます。人間、植物、動物、地獄にいる存在、半神などはすべて輪廻の一部であり、「アーチャーランガ・スートラ」では、輪廻に含まれる生き物が以下のように分類されています。

「生物たるもの、すなわち、1. 卵から(鳥類) 2. 胎児から(ゾウのように) 3. 包む膜とともに胎児から(ウシ、バッファローのように)4. 流動物から(蛆虫のように)5, 水滴から(虫、ノミのように)6. 凝固することによって(イナゴ、アリのように) 7. 芽を出すことで(チョウやセキレイのように) 8. 新生することによって(人間、神、地獄にいる者)、生まれる者と呼ばれるものが存在する。これが輪廻と呼ばれる。」

この分類は、生命の多様性と、それらがすべて輪廻のサイクルの一部であることを示しています。

ジャイナ教における輪廻の概念は、苦しみの認識と、そこからの解放への強い願望に基づいています。輪廻からの脱却を目指し、自己の魂を高めることが、ジャイナ教徒の重要な目標なのです。

参考文献
Jacobi, Hermann (1884). Ācāranga Sūtra, Jain Sutras Part I, Sacred Books of the East, Vol.22.. http://www.sacred-texts.com/jai/sbe22/index.htm
Jacobi, Hermann (1895). (ed.) Max Müller. ed. Jaina Sutras, Part II : Sūtrakrtanga. Sacred Books of the East, Vol. 45. Oxford: The Clarendon Press. http://www.sacred-texts.com/jai/sbe45/index.htm
* Jacobi, Hermann (1895年). “The Uttarâdhyayana Sûtra”. The Jaina Sutras, Part II, Translated from Prakrit. Oxford: The Clarendon Press. 2007年9月27日閲覧。

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