輸入代替工業化

輸入代替工業化 (Import Substitution Industrialization: ISI)

輸入代替工業化とは、輸入を制限し、国内生産を奨励することで工業化を図る政策です。英語の頭文字を取り、ISIと略されることもあります。

概要

輸入代替工業化は、一般的に以下の政策を伴います。

国内産業への補助金: 国が発展させたい産業に対し、補助金を支払い国内生産を奨励します。
保護主義的政策: 関税や輸入割当などの保護主義的な政策を実施し、海外からの製品の流入を制限します。
為替操作: 自国通貨の価値を意図的に高く誘導する為替操作を行い、中間財や資本財を安く輸入できるようにします。
対内直接投資の抑制: 外国からの直接投資を制限し、国内産業の保護を図ります。

輸入代替工業化は、国の経済成長において製造業部門の発展が不可欠であるという考えに基づき、それを達成するための有効な手段として位置づけられています。

歴史

輸入代替工業化の考え方自体は、18世紀後半から19世紀にかけてアレクサンダー・ハミルトンやフリードリッヒ・リストによって提唱されていました。しかし、20世紀の工業化政策として注目を集め、1960年代半ばまで、発展途上国の多くの経済学者から支持されていました。第二次世界大戦後の経済発展において輸入代替工業化政策を用いた多くの国は、1980年代後半には輸入代替政策から、政府の市場への介入を最小限に抑え、世界貿易機関の加盟国として積極的に国際貿易に参加する政策へと転換していきました。

問題点

輸入代替工業化には、以下のような問題点が指摘されています。

市場の歪み: ラーナーの対称性定理によれば、輸入代替工業化政策は、輸入産業への資源投入を増加させる一方で、輸出産業への資源投入を減らすため、市場に歪みをもたらします。
財政赤字: 政府が財政赤字を抱えることになり、政府が支援して設立した公営企業は利益率が上がりにくい傾向があります。
国際競争力の欠如: 輸入代替工業化によって生産される輸入代替財は、国際市場での競争に勝てず、国の経常収支は赤字になる傾向があります。
レントシーキング: 特定の企業や個人が政府の保護や特権を利用して不当な利益を得ようとするレントシーキング活動によって資源が浪費される可能性があります。
比較優位の放棄: リカード・モデルなどの伝統的な貿易理論が示す、貿易による比較優位産業への特化の利益を放棄することになります。
イノベーションの阻害: 輸入代替工業化によって保護された産業は、競争から守られる一方でイノベーションを行い効率性を改善させるインセンティブが働かなくなります。

理論的背景

輸入代替工業化政策を正当化する理論的根拠として、プレビッシュ＝シンガー命題、幼稚産業保護論、ケインズ経済学などが挙げられます。

例

ラテンアメリカ: 1950-80年代のラテンアメリカでは、「ラテンアメリカの構造主義」と呼ばれる輸入代替工業化政策が実施されました。ラウル・プレビッシュ、ハンス・シンガー、セルソ・フルタボらが中心となり、ケインズ経済学、マルクス主義、社会主義、従属理論などの影響を受けながら推進されました。
アジア: 香港、韓国、台湾は、輸入代替工業化政策の数少ない成功例として挙げられます。しかし、これらの国や地域では、政府が積極的に市場に介入し、輸出志向型工業化を図った結果であるとする見方もあります。

輸入代替工業化は、初期の工業化段階においては一定の効果を発揮する可能性もありますが、長期的な経済成長のためには、国際競争力を強化し、輸出を促進する戦略が重要となります。

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