輸租帳

輸租帳について

輸租帳（ゆそちょう）とは、古代日本の律令制度において、国司の政務の実績を評価するために作成された帳簿のことを指します。この帳簿は、毎年実際に収められた田租（たんそ）・地子（じこ）に関する正確な数値を集約しており、国司が都に派遣する「貢調使」がこれを携えて民部省に提出しました。輸租帳は「租帳（そちょう）」とも呼ばれることがあります。

この帳簿の重要性は、国の税制や民の生活に直結していたため、当時の社会構造や経済状況を理解する上で外せない資料となっています。特に、天平12年（740年）に作成された遠江国浜名郡の輸租帳の逸文からは、その詳細な構成を知ることができます。

輸租帳の概要

具体的には、輸租帳には国内での総田積や前年の欠乗田数（田の過不足数）、不輸租田の内訳とともに田租や地子の総額が記載されています。また、各郡ごとに同様の情報が整理されており、自然災害などで田租や地子が減免される場合には、その理由や減免額、影響を受けた者の名前が詳しく記載されていました。

特に、遠江国の例からは当時の制度がどのように運用されていたかが窺えます。減免措置については、損害の程度に応じて「半輸」「田租免」「租調免」「租庸調免」といった区分が設けられており、このような詳細な運用が150年以上後の延喜式における書式と一致していたことが示されています。これは、当時の律令制度がかなり整備されており、その形が継承されていたことを意味します。

時代の変遷と輸租帳の役割

しかし、律令制が緩やかに崩壊していく10世紀以降、輸租帳は次第に形骸化していきます。とはいえ、正税帳とともに受領功過の審査に必要な資料として作成は続けられ、12世紀まで存続しました。この時期の輸租帳は、実際の状況を反映していない過去の記録のコピーとなっていたとされています。例えば、保安元年（1120年）に作成された摂津国租帳などがその一例です。

このように、輸租帳は古代日本の税制を把握するための重要な資料であると同時に、その後の時代における支配システムの変化を理解するための手がかりともなっています。歴史学や古文書学の研究においても、多大な意味を持つ存在であることは間違いありません。古代の「輸租」という言葉には、単なる税の徴収以上の意義が込められているのです。

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