辻嘉六

辻 嘉六

辻 嘉六（つじ かろく、1877年〈明治10年〉3月5日 - 1948年〈昭和23年〉12月21日）は、大正時代から昭和時代にかけて活動した日本の実業家であり、同時に政界に隠然たる影響力を持った人物、いわゆるフィクサーとして知られています。事業家としての手腕を活かしつつ、多くの政治家と深い関係を築き、その活動は国内政治のみならず、国外にも及んでいました。

若き日々から実業家へ

辻嘉六は、1877年（明治10年）に岐阜県稲葉郡加納町（現在の岐阜市の一部）で生を受けました。地元の学校で学んでいましたが、郷里の中学校を中退するという決断をし、やがて日本の首都である東京へと向かいます。上京後、彼は鉱業分野を含む様々な事業に携わり、実業家としての経験を積んでいきました。

彼の事業家としてのキャリアにおいて特筆すべきは、1922年（大正11年）に日満実業株式会社（後に日本化学産業と改称）を創立したことです。彼はこの新会社の代表取締役に就任し、事業を拡大させていきました。この会社は、彼の経済的基盤となり、後の政治活動を支える重要な柱となります。

政界の黒幕として

実業家として成功を収める一方で、辻嘉六は日本の政治界にも深く関与していきます。彼は、当時の主要政党の一つであった立憲政友会の強力な後援者として知られるようになりました。陸軍大将の児玉源太郎や、後の総理大臣となる政治家・原敬といった各界の重鎮からも信頼を得て、彼らとの知遇を通じて政界とのコネクションを築きました。

特に立憲政友会内部の有力な政治家たちとは、長年にわたり密接な関係を維持しました。彼は、将来有望と見込んだ政治家に対して経済的な支援を惜しまなかったと伝えられています。このような活動を通じて、彼は単なる資金提供者という立場を超え、多くの政治家にとって頼れる相談役、時には彼らのキャリアを左右するほどの存在となっていきました。その影響力は非常に大きく、表舞台には立たないものの、政界の奥深くに潜む「黒幕」あるいは「フィクサー」と称される所以となりました。1945年（昭和20年）、第二次世界大戦終結直後に結成された日本自由党の設立にも関与したとされており、戦後の政治情勢においても一定の役割を果たしたことが伺えます。

国際的な支援活動

辻嘉六の活動範囲は国内に留まりませんでした。彼は、当時の清国から日本へ亡命していた中国の革命家たちに対しても援助を行っています。特に、後の中国国民党を率いることになる孫文や、辛亥革命の指導者の一人である黄興といった人々に対し、資金的な支援を行ったことはよく知られています。これは、彼が単に国内政治に関心を持っていただけでなく、当時の東アジア情勢にも目を向け、一定の理念に基づいて行動していたことを示唆しています。

戦後の動向と最期

第二次世界大戦が終結し、日本の占領期に入ると、辻嘉六の立場にも変化が訪れます。戦後、連合国軍総司令部（GHQ）による隠退蔵物資に関する調査が始まり、彼はその関与を疑われることとなりました。衆議院に設置された不当財産取引調査委員会において、彼の政治家への献金についても詳細な追及を受けることになります。これは、彼が戦前・戦中を通じて培ってきた政治との関わりが、戦後の新たな体制下で問われた出来事でした。

様々な出来事を経験した波乱の生涯を終え、辻嘉六は1948年（昭和23年）12月21日にこの世を去りました。享年71歳でした。

家族

彼の家族としては、長女に辻トシ子がいます。辻トシ子もまた、後に自身のキャリアの中で秘書やコンサルタントとして活動しています。

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