辻征夫

辻征夫（つじ ゆきお）

辻征夫は、1939年8月14日に東京で生まれた日本の詩人です。東京都立墨田川高等学校を経て明治大学文学部を卒業しました。俳号は「貨物船」です。

生涯

15歳から詩を投稿し始め、大学在学中の1962年に第1詩集『学校の思い出』を発表しました。彼の詩は、日常における微細な発見を、軽やかでユーモラスな語り口で表現しているのが特徴です。

詩作の初期

1957年春に書かれた小品「美しいもの」は、言葉が詩人をいかに魅了するか、その詩的体験を鮮やかに描き出しています。しかし、同年秋に発表した「木」を境に、彼は一時的に詩作が困難になります。辻自身は、この作品が絶望の詩であったと語っています。ランボーやリルケのような高みに達することができないという自覚が、この時期に芽生えたと言います。

再出発と後年の活躍

1987年、辻は詩作を再開し、意識的に詩的体験に没入する可能性を探求し始めます。この時期から、作品数が飛躍的に増加しました。彼の詩は、一見すると軽い印象を与えるかもしれませんが、注意深く読むと、重層的な時空間が混沌として現れる、独特の世界観を体験できます。

2000年1月14日、脊髄小脳変性症のため、千葉県船橋市の病院で亡くなりました。

作品の特徴と評価

彼の詩作品は、「ライト・バース」と呼ばれることがあります。一見すると軽快で深みのない作品のように思われがちですが、実際には、重層的な時空間が複雑に絡み合った、独特の体験を呼び起こすものです。特に詩集『ボートを漕ぐおばさんの肖像』や『河口眺望』は重要な作品であり、これらの作品が後の『俳諧辻詩集』や『萌えいづる若葉に対峙して』の基礎となっています。『河口眺望』は、第四十四回芸術選奨文部大臣賞と第九回詩歌文学館賞を受賞しました。また、『俳諧辻詩集』は、第十四回現代詩花椿賞と第四回萩原朔太郎賞を受賞しています。

主な作品

詩集

『学校の思い出』（1962年）
『かぜのひきかた』（1987年）
『天使・蝶・白い雲などいくつかの瞑想』（1987年、第二十五回藤村記念歴程賞）
『ヴェルレーヌの余白に』（1990年、第二十一回高見順賞）
『ボートを漕ぐおばさんの肖像』（1992年）
『河口眺望』（1993年）
『俳諧辻詩集』（1996年）
『萌えいづる若葉に対峙して』（1998年）

評論・小説

『ロビンソン、この詩は何？』
『かんたんな混沌』
『絵本摩天楼物語』
『ぼくたちの（俎板のような）拳銃』
『ボートを漕ぐもう一人の婦人の肖像』

その他

『いまは吟遊詩人』(1970/11)
『隅田川まで』(1977/4)
『落日』(1979)
『鶯─こどもとさむらいの16篇』(1990/5)
『辻征夫詩集成』 (2003/10)
『続・辻征夫詩集 現代詩文庫』(1999/02)
『船出』 (1999/02)
『貨物船句集』(2001/01)
『ゴーシュの肖像』(2002/01)
『詩の話をしよう」(2003/12)
『私の現代詩入門―むずかしくない詩の話』詩の森文庫 (104) (2004/12)
* 『みずはつめたい―辻征夫詩集 詩と歩こう』 (2004/07)

余談

20代の頃、詩人の飯島耕一と雑談中に、旅先で特定の場所に足を踏み入れたくなるという発言をした際、飯島に心配されたというエピソードがあります。辻は、向島の花街と鳩の街の間で育ったため、そういった街の雰囲気に落ち着きを感じていたようです。


辻征夫は、その独特の詩風で多くの読者を魅了し、現代詩の世界に独自の足跡を残しました。

もう一度検索