近江大津宮

近江大津宮とは

近江大津宮（おうみおおつのみや）は、飛鳥時代に天智天皇が現在の滋賀県大津市に設けた都です。天智天皇6年（667年）に飛鳥から遷都され、約5年間、政治の中心地として機能しました。この地で、天智天皇は正式に即位し、律令制の基礎となる近江令や庚午年籍を制定するなど、重要な施策が実行されました。しかし、天智天皇の崩御後、壬申の乱によって都は廃止され、短命に終わりました。

歴史的背景

近江大津宮が成立した背景には、当時の国際情勢が大きく影響しています。斉明天皇6年（660年）に、同盟国であった百済が唐と新羅によって滅亡したことが、大きな危機感をもたらしました。倭国（後の日本）は、百済復興のために出兵しましたが、白村江の戦いで大敗し、国際的な脅威に直面しました。中大兄皇子（後の天智天皇）は、国防を強化するため、北部九州や瀬戸内海沿岸に山城を築き、大宰府には水城を設けるなどの対策を講じました。その中で、政治体制を刷新し、国防を強化する必要に迫られ、飛鳥から大津への遷都を決意しました。

遷都の理由

天智天皇が近江大津へ遷都した理由は、国防上の危機意識に加え、飛鳥の抵抗勢力から離れる狙いがあったと考えられています。大津は琵琶湖に面し、東山道や北陸道などの交通路が交わる要衝であり、軍事・交通の両面で有利な場所でした。しかし、日本書紀には、遷都に対して民衆からの不満があったと記されており、その混乱ぶりを伺わせます。

その後

天智天皇の崩御後、子の弘文天皇（大友皇子）が後を継ぎましたが、皇位を巡り、大海人皇子（後の天武天皇）との間で壬申の乱が勃発しました。大友皇子は敗れ、自害し、大海人皇子が勝利したことで、大津宮はわずか5年で廃都となりました。その後、都は飛鳥に戻され、近江大津宮は歴史の表舞台から姿を消しました。万葉集には、柿本人麻呂が滅亡後の大津宮を訪れて詠んだ歌が残されており、その栄華を偲ぶことができます。

近江大津宮の所在地と遺構

近江大津宮の正確な所在地は長らく不明でしたが、1974年の発掘調査によって、滋賀県大津市錦織の住宅地で宮の一部遺構が発見されました。柱穴や回廊などの遺構が見つかり、その後の調査で、内裏正殿や朝堂院が存在したことが明らかになりました。近江大津宮は、前期難波宮を参考に造営されたと考えられており、その構造は難波宮との類似点が多く見られます。現在、この遺跡は「近江大津宮錦織遺跡」として国の史跡に指定され、一部が公園として整備・保存されています。

近江京と「大津京」

日本書紀には、天智天皇の近江の都を「近江京」と表記されていますが、平城京や平安京のような条坊制は確認されていません。一方、明治時代以降、歴史学者の喜田貞吉が「大津京」という言葉を使用し、広く使われるようになりましたが、この言葉の定義や概念は曖昧で、研究者の間で混乱を招いています。

弘文天皇陵

近江大津宮の近くには、壬申の乱で敗れた弘文天皇（大友皇子）の陵墓があります。この陵墓は、長等山山麓にあり、かつて天智天皇と大友皇子が住んでいたとされる場所のすぐ西隣に位置しています。

まとめ

近江大津宮は、短い期間でしたが、日本の歴史において重要な役割を果たした都です。遷都の背景には、国際情勢や国内の政治的な混乱がありましたが、その中で律令制度の基礎が築かれました。現在、遺跡の一部は整備され、その歴史を伝えています。近江大津宮は、古代日本の転換期を象徴する場所として、今も多くの人々に記憶されています。

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