近江谷栄次

近江谷栄次の生涯と業績

近江谷栄次（おうみや えいじ、1874年1月20日 - 1942年6月8日）は、日本の実業家として知られ、また衆議院議員としても活躍した人物である。号は「井堂」で、秋田県の一日市村（現八郎潟町）に生まれた。彼の旧姓名は畠山留吉であり、16歳のときに土崎港にある商人・近江谷家の養子となった。

近江谷は、教育を受けるために秋田中学校に入学したが、途中で中退。その後、1889年に栄治という名を受け継ぎ、20代の若者として地元経済の発展に邁進する。特に注目すべきは、彼が私財を投じて行った秋田港の改修事業である。13年の歳月をかけたこの工事は、1902年に完了し、改修された港の名前は近江谷が招請した建築家の廣井勇に因んだ「廣井波止場」と名付けられたが、通称「近江谷波止場」とも呼ばれることとなった。

1896年、彼は旧秋田銀行の設立にも参加し、地域金融の基盤を支える役割を果たした。続いて1901年には秋田県初の火力発電所、いわゆる近江谷発電所を設立。これは現在の秋田市立土崎南小学校の位置に建てられ、石炭を燃料として60キロワットの電力供給を開始した。この発電所は、土崎地区だけでなく、秋田市の中心部にも電力を供給する重要な施設となった。

また、1908年には国鉄の工場（現在の秋田総合車両センター）の誘致にも尽力。自らが所有する土地3万坪を無償で提供し、地域産業の発展に寄与した。

政治活動においても、近江谷は影響力を発揮した。土崎港町の会議員や南秋田郡会議員、秋田県議会議員を歴任し、1904年には衆議院議員に当選。その後2期にわたり議員として活動し、1910年にはブリュッセルで開かれた第1回万国議員会議にも参加。1916年には土崎港町長に就任し、その後も地域に貢献する活動を続けた。特に1917年には土崎幼稚園を創設し、教育にも力を入れた。

近江谷の個人的エピソードとしては、1910年に万国議員会議に参加する際、子の小牧近江を同伴したことがあり、これが小牧がパリ大学を卒業し帰国後に社会運動に携わるきっかけとなった。これは彼の子育てへの影響を物語るエピソードと言えるだろう。

1942年、東京都にて68歳で亡くなった近江谷は、地域経済に寄与した実業界の巨星であり、また政治分野でも重要な役割を果たした人物である。彼の名は彼が築いたインフラやネットワークを通じて、今なお多くの人々に記憶され続けている。彼に関する著作としては、小牧近江が編纂した『近江谷井堂』や、衆議院・参議院が発行した『議会制度百年史 衆議院議員名鑑』などがある。

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