近江鉄道500系電車

近江鉄道500系電車：通勤輸送を支えた名車両

近江鉄道500系電車は、1969年から1983年にかけて、近江鉄道が自社工場で製造した通勤形電車です。当時の通勤輸送需要の増加に対応するため、6編成12両が導入されました。本系列は、台車や主電動機などの主要機器に廃車発生品を転用したため、名目上は改造車両とされていますが、車体は自社工場で新造されており、実質的にはほぼ新造車と見なすことができます。

車両の特徴

500系は、3扉ロングシートの車体構造を持ち、前面には貫通路が設けられています。製造時期により仕様に若干の差異があり、1983年製造の506編成では、装備の軽量化が図られました。具体的には、台枠の軽量化や、各扉が無塗装のステンレス製となったこと、そして前面腰部にステンレス無塗装の飾り帯が配されたことが挙げられます。この506編成は、山吹色一色の塗装で竣工し、後に501編成も同様のスタイルに改造されました（ただし、台枠の軽量化が行われたかは不明です）。

登場当初の塗装はクリーム色と朱色のツートンカラー（いわゆる「赤電色」）でしたが、後に黄色（山吹色に近い）に銀色の帯を配した塗装に変更されました。また、台車は当初イコライザー式のDT-10やTR-11Aを使用していましたが、後にFS40に置き換えられました。ブレーキ装置についても、HRD電気指令式ブレーキに改修されています。

運用と終焉

最盛期には12両が在籍し、近江鉄道の通勤輸送を支えていましたが、非冷房車であることがネックとなり、冷房車の導入が進むにつれて夏季は予備車となることも多くなりました。その後、800系の増備が本格化したことを受け、2000年から2003年にかけて502Fから504Fが順次廃車されました。廃車された編成は、彦根車庫に留置された後、2004年に解体されています。

一方、505Fは2005年の廃車後、長らく高宮駅の側線に留置されていましたが、レール輸送用の工臨運用に使用するための貨車チ10形（11号 + 12号）に改造され、220形に牽引されて活躍しています。この改造によって、500系の一部は姿を変えながらも現存することになりました。

保存車両のその後

501Fと506Fは運用離脱後、近江鉄道ミュージアムで展示されていましたが、2012年にモハ501を除いて解体されました。残ったモハ501は2013年より、彦根駅東口にある近江鉄道が経営する保育園「ほほえみ園」の遊び場として、内外装ともに改装され使用されていましたが、2019年1月に220形の一部車両とともに奈良県内の解体場へ陸送されました。

現在、500系電車として現存する車両はなく、前述の貨車に改造された2両のみがその歴史を今に伝えています。

車両一覧

501F
502F
503F
504F
505F
506F

参考文献

井上広和・高橋摂『カラーブックス 日本の私鉄24 近畿』保育社、1983年。ISBN 978-4586505982。
白土貞夫「私鉄車両めぐり83 近江鉄道下」『鉄道ピクトリアル』通巻第240号、鉄道図書刊行会、1970年8月、66 - 76頁。
佐藤利生「特集 夏 私鉄電車探訪 近江鉄道」『鉄道ファン』通巻436号、交友社、1997年8月、36 - 37頁。
高田圭「現有私鉄概説 近江鉄道」『鉄道ピクトリアル』通巻第685号、鉄道図書刊行会、2000年5月、44 - 55頁。
藤井信夫「近江鉄道電車沿革史」『鉄道ピクトリアル』通巻第685号、鉄道図書刊行会、2000年5月、145 - 154頁。
文：楠居利彦 写真：辻 良樹「元西武鉄道の改造車両達」『鉄道ダイヤ情報』通巻277号、交通新聞社、2005年10月、21 - 23頁。
楠居利彦「全国「吊掛式駆動電車」ガイド」『鉄道ダイヤ情報』通巻289号、交通新聞社、2006年8月、25頁。
土屋武之「近江鉄道 今を走る車両カタログ」『週刊 歴史でめぐる鉄道全路線 公営鉄道･私鉄』第29号、朝日新聞出版、2011年10月、31頁。

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