近藤東

近藤 東

近藤 東（こんどう あずま）は、1904年6月24日に生まれ、1988年10月23日にその生涯を閉じた日本の詩人です。

経歴

東京の京橋で生を受けた近藤東は、幼少期から文学への関心を示し、岐阜中学時代には既に短歌を創作していました。特に、15歳にして歌人の窪田空穂からその才能を高く評価されるなど、若くして頭角を現しました。明治大学に進学し、在学中に同人誌『謝肉祭』を創刊。

大学卒業後、鉄道省に入省し公務員として勤務する傍ら、詩作活動を継続しました。この頃から、春山行夫、竹内隆二、棚夏針手、佐藤一英といった当時の詩壇・文壇の多くの重要人物たちとの交流を深めていきます。詩壇の大御所であった北原白秋にも才能を見出され、『詩と音楽』や『近代風景』といった主要な文芸誌を通じて、新進気鋭の詩人として認知されるようになります。

1927年には上海を外遊し、その体験は彼の詩作に大きな影響を与えました。翌1928年には、日本のモダニズム詩運動を牽引した雑誌『詩と詩論』の創刊に編集同人として参加。以後も『MADAME BLANCHE』、『文学』、『詩法』、『新領土』といった戦前・戦中にかけての重要な文芸誌に関わり、日本のモダニズム詩運動の中心的な役割を果たした一人として活動を展開しました。1930年には、当時の主要雑誌『改造』の100号記念懸賞に応募した詩「レーニンの月夜」が一等に入選し、その評価を確固たるものとしました。

彼の戦前の詩作は、上海や仮想の都市空間を舞台とすることが多く、近代都市に生きる市民のシニカルな視点を特徴としていました。その表現手法も独特で、カタカナ書きを多用したり、シナリオ形式を取り入れたりするなど、実験的な試みを通じて都会的な感性を表現しました。村野四郎からは「典型的なモダニズム詩人」と評されています。『詩と詩論』後の『詩法』や『新領土』では、編集者としても精力的に活動し、戦後の詩壇を担う『荒地』派の詩人たちをはじめとする多くの若手詩人の才能を見出し、育成にも力を注ぎました。

戦後は、戦前の手法からやや距離を置き、市井の人々の生活の実態をより直接的に描写する作風へと変化していきました。しかし、その根底には常に、特定の思想やイデオロギーに縛られない、都市生活者の冷静かつ時に皮肉めいた視座が貫かれていました。

詩作活動に加え、彼は多岐にわたる分野でその才能を発揮しました。国鉄職員としての経験を活かした勤労詩運動のオーガナイザーを務めたほか、童話作家、NHKのラジオ番組「話の泉」のライター、そしてグラフ雑誌『アサヒグラフ』では「えぴっくとぴっく」というコラムを長期にわたり執筆するなど、幅広いメディアで活躍しました。

詩壇における公職も歴任し、1960年からは日本詩人会の理事長、後に会長を務めました。その他、国鉄詩人連盟会長、横浜詩人会会長、神奈川近代文学館評議委員なども務め、詩壇の発展に貢献しました。その長年の功績が認められ、1981年には神奈川文化賞を受賞しています。彼のモダニズム詩に関連する貴重な蔵書は、「近藤東文庫」として神奈川近代文学館に収蔵・管理されています。

主な著作

詩集

『叙情詩娘』(1932)
『万国旗』(1941)
『紙の薔薇』(1944)
『百万の祖国の兵』(1944)
『えぴっくとぴっく』(連載1947年頃〜)
『風俗』(1960)
『軍艦』(1961)
『婦人帽子の下の水蜜桃』(1964)
『歳月』(1976)
『晝の華』(2002) ※没後刊行

童話その他

『鉄道の旗』(1944)
『ハイジ物語』(1948)
『ことば歳時記』(1983)

全集

『近藤東全集』(1987)

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