近赤外線分光法

近赤外線分光法（NIRS）とは

近赤外線分光法（Near-Infrared Spectroscopy、NIRS）は、物質に近赤外線を照射し、その吸光度を測定することで、物質の成分や状態を分析する分光法の一種です。近赤外線領域の光を用いるため、中赤外線や遠赤外線と比較して物質による吸収が少ないという特徴があります。この特性により、試料を破壊したり、特別な前処理を施したりすることなく、非破壊・非接触での測定が可能です。

原理

NIRSでは、分子の倍音や結合音を観測します。しかし、近赤外線領域の吸収は、様々な要因が複雑に絡み合っているため、成分との直接的な関連付けが困難でした。しかし、近年、コンピュータの性能向上と多変量解析（ケモメトリックス）の発展により、これらの複雑なデータを解析し、定量分析に応用することが可能になりました。

特徴

NIRSの主な特徴は以下の通りです。

非破壊・非接触測定: 試料を傷つけたり、汚染したりすることなく測定できます。
迅速な測定: 化学分析と比較して、短時間で測定結果を得られます。
安価な装置: マイクロ波などを利用する分析装置と比較して、比較的安価な装置で済みます。

応用分野

NIRSは、上記の利点を活かして、様々な分野で応用されています。

宇宙: 天体の組成分析に利用されています。例えば、宇宙探査機「はやぶさ」は、NIRSを用いて小惑星「イトカワ」の調査を行いました。
食品産業: 小麦粉、食用油、食肉などの原材料から、クッキー、チョコレート、乳製品などの加工食品、さらには日本酒、ワイン、醤油などの液体の成分分析に用いられています。
農業: お茶の成分測定（窒素、タンニン、水分など）、野菜の硝酸イオン濃度測定、ミカンなどの糖度評価・選別などに利用されています。
畜産: 飼料の検査や、鶏などの腹腔内脂肪の検査に用いられています。
医薬品: 原材料の受け入れ検査、工程管理（混合均一性の確認）、結晶形や結晶化度のチェックなどに利用されています。
医科学・神経科学: 生体組織に含まれるヘモグロビンやミオグロビンの酸素結合状態の違いを利用して、脳の血流量や酸素消費量などを非侵襲的に計測するために利用されています。パルスオキシメーターもこの技術を応用したものです。

課題と展望

NIRSは、その簡便さから様々な分野で利用が広がっていますが、一方で、データの解釈やモデルの構築には専門的な知識が必要です。今後は、より使いやすいソフトウェアの開発や、データベースの充実などが求められます。また、近年では、AI（人工知能）を活用した解析技術の開発も進められており、NIRSの応用範囲はさらに広がることが期待されています。

参考文献

『近赤外分光法 (分光法シリーズ2)』 尾崎幸洋 編著、講談社 、2015年、ISBN 9784061569027
『近赤外分光法 (日本分光学会 測定法シリーズ)』 尾崎幸洋・河田 聡、学会出版センター、1996年、ISBN 9784762298233
『近赤外分光法入門』 岩元睦夫・河野澄夫・魚住 純、幸書房、1994年、ISBN 9784782101278

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