逃げてはみたけど

『逃げてはみたけど』（原題：CELLBOUND）は、1955年11月25日に公開された、メトロ・ゴールドウィン・メイヤー（MGM）製作のアニメーション作品です。監督はテックス・アヴェリーとマイケル・ラーが名を連ねています。

この作品は、懲役500年の刑に服しているブルドッグのスパイクの脱獄劇を描いています。スパイクは20年もの歳月をかけ、独房の床下を地道に掘り進め、全長500メートルものトンネルを完成させます。綿密な計画と並々ならぬ努力の末、彼はついに刑務所からの脱出に成功するのです。

しかし、脱出劇はここで終わりません。スパイクは偶然、線路脇に停車していた貨物列車に乗り込み、中にあったテレビの中に隠れることを思いつきます。しかし、そのテレビは、なんとスパイクが脱獄した刑務所の所長室へと届けられることになります。

所長は、そのテレビを妻への結婚記念日のプレゼントとして購入したものだったのです。テレビのスイッチが入ると、西部劇、ボクシング、競馬中継といった番組が流れ始めます。しかし、それらの番組は全て、テレビの中に隠れたスパイクが自作自演で演じているものだったのです。

スパイクは、持っていたかつらや衣装などを巧みに使い分け、一人何役もこなす見事な演技で所長を欺こうとします。ジャズ演奏のシーンでは、一人で複数の楽器を操り、軽快なディキシーランド・ジャズを奏でる彼の姿は圧巻です。ジャズにのせ狂乱の舞を踊り始める所長でしたが、最後は「俗悪な番組だ」とテレビのスイッチを切ります。

テレビが所長の自宅へと送られることを知ったスパイクは、再び地中を掘り進み、脱出を試みます。しかし、彼がたどり着いた先は、なんと再び所長宅に届けられたテレビの中だったのです。この予想外の結末に、スパイクはショックを受け、頭がおかしくなったように暴れ出します。一方、所長夫妻はスパイクの騒動をコメディとして楽しんでいるのでした。

本作のスタッフには、テックス・アヴェリー、マイケル・ラーの他、フレッド・クインビー（制作総括）、ヘック・アレン、レイ・レイノルズ（脚本）、エド・ビーンディクト（レイアウト）、スコット・ブラッドリー（音楽）、ケネス・ミューズ、エド・バーグ、アーヴ・スペンス（アニメーション制作）といった錚々たるメンバーが名を連ねています。

特筆すべきは、クレジットにはテックス・アヴェリーとマイケル・ラーの名前が並んでいますが、アヴェリーは1953年にMGMを退社しており、本作の制作にはほとんど関わっていなかったという点です。そのため、本作は事実上、マイケル・ラーとハンナ＝バーベラ・プロダクションの共同制作と考えるべきでしょう。アニメーターにも『トムとジェリー』の制作スタッフが参加している点も興味深いところです。

また、本作はフレッド・クインビー名義、そして4:3の標準サイズで公開された最後の作品でもあります。オープニングに使用されている音楽は、アヴェリーの旧作『ノミのサーカス』からの流用であることも、注目すべき点です。

登場キャラクターは、懲役500年の囚人スパイクと、冷淡で皮肉屋だがジャズ好きで妻思いの刑務所長ジョージです。スパイクの地道な脱獄計画、予想外の展開、そして自作自演の奇想天外なテレビ番組の数々は、観客に多くの笑いと驚きを提供してくれるでしょう。日本のテレビでは、TBS版『トムとジェリー』の短編として放映されていたようです。

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