通潤用水

通潤用水：歴史と環境が交錯する農業用水路

熊本県上益城郡山都町に位置する通潤用水は、江戸時代に建設された歴史的な農業用水路です。南阿蘇外輪山に源を発する笹原川と五老ヶ滝川から取水し、現在も農業用水として重要な役割を果たしています。

水路の構造と特徴

通潤用水は、笹原川からの取水を「上井手」、五老ヶ滝川からの取水を「下井手」と呼びます。これら二つの幹線水路に加え、無数の支線水路が張り巡らされており、複雑な水路網を形成しています。特に有名なのは、上井手に架かる国宝の通潤橋です。かつては生活用水としても利用されていましたが、水道の普及によりその役割は終えました。しかし、その歴史的価値が認められ、2014年には国際かんがい排水委員会の「かんがい施設遺産」に登録されています。

通潤用水の特徴として、以下の点が挙げられます。

二本の幹線水路: これはリスクヘッジと水のリサイクルを兼ね備えた設計です。
トンネル構造: 起伏の多い山間部を通すため、「貫」「導水坑」と呼ばれるトンネル部分が多く存在します。

江戸時代の水路建設

江戸時代、細川藩は「手永」という行政組織で地方を統治していました。当地には矢部手永が置かれ、浜町に会所（役所）が設置されました。会所の最高責任者である惣庄屋は、世襲や才能によって選ばれていました。通潤橋と通潤用水の建設を主導した布田保之助も、惣庄屋を務めた家系の一人です。

水需要の拡大と環境への影響

当初の計画を大幅に超える新田開発が進められた結果、通潤用水の灌漑面積は拡大しました。水路や堰堤は近代化され、水流が速くなったため、水の供給量は増加しましたが、同時に問題も発生しました。

水量の急増: 稲作の近代化や梅雨時期前の田植え、下流部の水力発電用ため池の設置などが複合的に影響し、使用水量が急増しました。
環境破壊: 春先の渇水時には取水河川の水量が減少し、下流にある滝の景観が変化したり、水質が悪化するなどの環境破壊が起きています。

水争いと円形分水

慢性的な水不足は、明治後期から昭和にかけて上流地区と下流地区の激しい水利権争いを引き起こしました。この問題を解決するために作られたのが、笹原にある「円形分水」です。通潤用水は、歴史的に見ると矢部手永の権威によって水を確保したものでした。その後、布田保之助が神格化され、布田神社が建立されました。現在では、トイレなどが整備され、見学施設となっています。

沿革と背景

江戸時代、米は重要な産物であり、貨幣としての機能も持っていました。度重なる飢饉による米不足と米価の高騰は、諸藩の財政を苦しめましたが、同時に西国の諸藩の財政を幾分か好転させる要因にもなりました。農業技術の進歩に伴い、米の増産意欲は高まっていました。水不足に悩む山あいの台地に水を引くことができれば、水田開発が可能になり、農家の生活を大きく改善できるという期待がありました。灌漑による新田開発は、富を得る大きな可能性を秘めていました。

関連施設：通潤橋

通潤橋は、石造りの水道橋として日本一の規模を誇ります。笹原川から取水する上井手が、五老ヶ滝川の深い谷を越えるために建設されました。

このように通潤用水は、歴史的な背景と現代的な課題を抱えながら、今も地域を支える重要な役割を果たしています。

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