進化分類学

進化分類学の概要

進化分類学は、生物を分類する際のアプローチの一つであり、生物の進化の歴史を反映した系統関係と、生物が持つ形態や機能といった表現型（外見的な特徴や生態など）の類似性の両方を考慮に入れる考え方です。これは、表現型の類似性のみを重視する伝統的な分類学や、厳密な系統関係のみに基づいて分類を行う分岐分類学とは異なる、独自の立ち位置を持っています。

伝統的な分類学との比較

伝統的な分類学では、長い間、生物の分類は主にその表現型の類似性に基づいて行われてきました。この方法では、進化の初期段階に留まるような、共通の祖先から受け継いだ原始的な形質（共有原始形質）を多く持つグループと、そこから枝分かれして新しい、独特な形質（共有派生形質）を獲得したグループを区別して分類単位（タクソン）を設定することが一般的でした。これは系統樹で例えると、根元近くでまとまるグループ（共有原始形質を持つ）を一つのタクソン（側系統群）とし、そこから派生して大きく変化したグループ（共有派生形質を持つ単系統群）を別のタクソンとするような手法です。伝統分類学は、このように共通祖先から派生した全ての子孫を含まない「側系統群」を分類単位として認めてきました。

分岐分類学との比較

これに対して、分岐分類学は、生物の分類は系統関係のみに基づいて行われるべきであると強く主張する立場です。分岐分類学では、系統樹における枝分かれのパターンだけを唯一の基準とし、特定の共通祖先とそこから派生した全ての子孫を含む「単系統群（Monophyletic group）」のみを正当な分類単位（タクソン）と見なします。表現型の類似性は、それが系統関係を反映している場合に補助的に考慮されるにすぎません。有名な例として、爬虫類と鳥類の分類があります。分岐分類学の立場では、鳥類はかつて「爬虫類」と呼ばれたグループから進化した単系統群の一部であるため、伝統的な意味での「爬虫類」と「鳥類」をそれぞれ独立した、互いに排他的なタクソンとして扱うことはできません。これは、しばしば我々が直観的に認識している生物の分類とは異なる結果をもたらすことがあります。

進化分類学のアプローチ

進化分類学は、系統関係と表現型の類似性の両方を重視することで、伝統分類学と分岐分類学の考え方を統合しようと試みるものです。系統樹における枝分かれのパターン、つまり類縁関係を考慮に入れる点は分岐分類学と共通しますが、同時に、生物が進化の過程で獲得した形態的・機能的な特徴（表現型）の分化の度合いも分類の重要な基準とします。このため、進化分類学では、厳密な単系統群（完系統群）だけでなく、ある共通祖先から派生した子孫の一部を除いた「側系統群」も、進化の段階や表現型の大きな変化を反映した分類単位として認めることができます。これにより、形態的に大きく変化したグループ（例：鳥類）を、系統的にはその祖先を含む大グループ（例：爬虫類）から区別して、独立した分類単位として扱いやすくなります。

課題と批判的な視点

しかし、進化分類学の立場も批判がないわけではありません。特に分岐分類学からは、「表現型のどの特徴を分類の基準として重視するか、その選択が客観的ではなく恣意的になりうる」という点や、「原始的な形態から派生的な形態への変化を、あたかも一方的な『進歩』であるかのように見なしてしまう、進化に関する古い誤解を助長しかねない」といった問題点が指摘されます。純粋に系統関係のみを用いる分岐分類学に比べて、分類基準の明確さや客観性において議論の余地を残す可能性があるということです。

用語の理解

用語についても補足が必要です。進化分類学において「側系統群」と呼ばれるグループは、確かに一つの共通祖先の子孫であるという意味では、広い意味での「単系統群」とも考えられます。しかし、これは分岐分類学が分類単位として認める、共通祖先とそこから派生した全ての子孫を含む厳密な単系統群、すなわち「完系統群（Holophyletic group）」とは明確に区別されます。進化分類学では、この完系統群ではない側系統群を、進化の歴史や表現型の特徴を反映する単位として扱うのです。

日本語における注意

日本語で「進化分類学」のことを「系統分類学」と呼ぶこともありますが、この用語には注意が必要です。なぜなら、生物の系統関係を重視する分類学全般を指して「系統分類学（Phylogenetic taxonomy）」と呼ぶこともあり、この中には厳密な単系統群のみを認める分岐分類学も含まれるからです。「系統分類学」という言葉が、進化分類学と分岐分類学のどちらを指しているのかは、文脈によって判断する必要があります。

進化分類学は、系統的な視点と伝統的な表現型による視点を組み合わせることで、生物の多様性を理解し整理しようとする試みであり、現代の分類学における重要な一側面を担っています。

関連項目：分岐分類学

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