道徳再武装

道徳再武装（MRA）運動：平和構築と複雑な歴史

道徳再武装（Moral Re-Armament、MRA）運動は、1921年にフランク・ブックマン牧師率いるオックスフォード・グループを起源とする国際的な運動です。当初はオックスフォード・グループとして活動していましたが、1938年に現在の名称となりました。ブックマン牧師は1961年に亡くなるまで、MRAを指導し、その活動は世界中に広がっていきました。

MRAの理念と活動

MRAはキリスト教的な価値観を基盤としながらも、あらゆる宗教や社会的背景を持つ人々を受け入れる非政府組織（NGO）でした。「4つの絶対標準」と呼ばれる倫理規範を掲げ、政治的・社会的な活動への参加を積極的に奨励していました。MRAは、国際的な平和構築や社会問題解決に貢献することを目的とし、世界各地で多様な活動を行っていました。

戦争と平和構築

第二次世界大戦中は、多くのMRA関係者が連合軍に参加し、戦功を挙げました。終戦後は、持続可能な平和構築に向けた活動に力を入れています。1946年にはスイスのコーに拠点を設立し、欧州諸国の和解に重要な役割を果たしました。ドイツのコンラッド・アデナウアー首相やフランスのロベール・シューマン外相など、多くの政治指導者がコーに集まり、MRAの仲介によって対話が進展。その結果、欧州石炭鉄鋼共同体が誕生するなど、国際的な平和と協調に貢献しました。

その後、MRAは世界中に広がり、特にアフリカやアジア諸国で影響力を拡大しました。多くの独立運動指導者たちがMRAの仲介による対立克服に敬意を表しています。

日本におけるMRA

戦後日本においては、MRAは文化交流を名目に反共運動を展開しました。多くの政治家や実業家がMRAに関わり、国際的なネットワーク構築に貢献した一方、その活動には政治的な色彩も強く、批判的な見方も存在します。岸信介元首相や中曽根康弘元首相など、日本の政界・財界の有力者たちがMRAに関わっていたことは、その影響力の大きさを示しています。

MRAは日本国際交流センターを拠点として活動し、日米欧の経済人による円卓会議の開催など、国際的な経済協力にも関わっていました。1976年以降は山本正氏が日本MRAを率い、ロックフェラー系の利権とも関連する組織との連携が指摘されています。

MRAとナチス

MRA創設者であるブックマン牧師は、1930年代にドイツのナチス政権と接触していました。ブックマンは、ヒトラーを共産主義への防波堤と見なしていたとする発言も残しており、その複雑な歴史が議論の的となっています。しかし、ゲシュタポの文書によれば、1934年以降、オックスフォードグループはナチスから監視を受けていたとされ、実際にはナチスに抵抗したオックスフォードグループ関係者も存在したことが分かっています。

MRAの影響とその後

MRAは、アルコール依存症者の自助グループであるアルコホーリクス・アノニマス（AA）や、国際的な青少年文化交流プログラムであるUp with Peopleなど、さまざまな運動の設立に影響を与えています。しかし、MRAは2001年にイニシアティブス・オブ・チェンジ（IofC）へと名称変更し、活動内容にも変化が見られます。現在も国際連合や欧州評議会との連携を図り、世界各地で持続可能な社会づくりを目指した活動を行っています。

結論

MRAは、国際的な平和構築に貢献した側面を持つ一方で、反共運動やナチスとの関わりなど、複雑な歴史を背景とする運動です。その活動内容や影響については、多角的な視点からの考察が不可欠です。

もう一度検索