ロベール・シューマン

ロベール・シューマン：欧州統合の父

ロベール・シューマン（1886年-1963年）は、欧州史に不可欠な人物です。ルクセンブルクで生まれ、ドイツで育ち、フランスで政治家として活躍した彼の生涯は、まさにヨーロッパの激動の歴史そのものでした。その複雑な出自と経験が、彼を独仏和解、ひいてはヨーロッパ統合へと導いたのです。

複雑な出自と初期の経験

シューマンの父はフランス人、母はルクセンブルク人でした。彼はルクセンブルクで生まれましたが、アルザス＝ロレーヌ地方がドイツ領であったため、ドイツの教育制度の中で育ちました。第一言語はルクセンブルク語とドイツ語で、フランス語は学校で学んだだけでした。そのため、彼のフランス語にはドイツ語訛りが残っていました。

彼はルクセンブルクとドイツの学校で教育を受け、その後ドイツの主要大学で学びました。ストラスブール大学で学位を取得した後、弁護士となりました。母親の死をきっかけに宗教的な生活も考えましたが、俗世に残り、生涯独身でした。

第一次世界大戦中は、ドイツ軍への入隊は不適切と判断され、ドイツのカトリック会議やメッツ市議会の議員として活動しました。戦後、アルザス＝ロレーヌがフランス領になると、シューマンはフランス政界に進出します。

戦間期から第二次世界大戦後

1919年、ティオンヴィユ地方議会議員に選出され、フランス政界でのキャリアをスタートさせました。彼はロレーヌの製鉄業における戦後の汚職を徹底的に調査し、不正を暴きました。また、戦前から一貫して、ドイツとフランスの和解、ひいてはヨーロッパの和解を訴え続けました。

しかし、1940年、彼はフィリップ・ペタンへの全権委任に賛成票を投じました。これは、彼のキャリアにおける大きな汚点の一つとして後世に議論を呼ぶことになります。その後、ナチス当局に逮捕され投獄されますが、1942年に脱獄しました。

第二次世界大戦後、シューマンはフランスの財務大臣、首相、そして外務大臣を歴任します。ルクセンブルク生まれでドイツで教育を受けた、ドイツ語訛りのフランス語を話す彼が、フランスの首相兼外務大臣になったことは、独仏和解の象徴的な出来事でした。

シュウマン宣言と欧州統合

1949年、アメリカ合衆国国務長官ディーン・アチソンから、西ドイツの政治的転換を促す提言を求められました。そして、1950年5月9日、歴史的な「シューマン宣言」を発表します。この宣言は、フランスとドイツの石炭と鉄鋼産業の共同管理を提案し、欧州石炭鉄鋼共同体（ECSC）設立の礎となりました。ECSCは、後の欧州連合（EU）へと発展していきました。5月9日は、現在「ヨーロッパ・デー」として祝われています。

後年の活動と功績

その後、シューマンは司法大臣や欧州議会議長を務めました。1958年には、カール大帝賞を受賞しました。彼の宗教的な生活ぶりは有名で、ピウス12世、トマス・アクィナス、ジャック・マリタンらの著作に深く影響を受けていました。

2000年に公開されたアメリカの機密文書によれば、シューマンはアメリカ諜報部の資金援助を受けてヨーロッパ統合を進めていた可能性があることも示唆されています。2004年には、列福調査が完了し、福者になる見込みであると発表されました。

シュウマンの遺産

ブリュッセルにはシューマン区があり、彼の功績を称えています。また、ストラスブールにはシューマンにちなんで名付けられた大学もあります。彼の生家は修復され、一般公開されています。シューマンの生涯と功績は、複雑で多面的なものであり、いまだに様々な角度から研究されていますが、彼が欧州統合に与えた影響は計り知れません。彼のビジョンと行動は、現代ヨーロッパの礎となっています。

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