道灌 (落語)

演目紹介：道灌

「道灌」は、日本の伝統的な落語の中でも特に人気を持つ演目で、別名を「太田道灌」とも呼ばれます。この物語は、江戸の初代林家正蔵が作り上げた笑話集『笑富林』に収められたものが原典となっています。道灌は、落語の中でも前座噺として知られていますが、著名な噺家たちによっても愛され、3代目三遊亭金馬や5代目柳家小さんのように、彼らの晩年まで得意ネタとして演じられました。

あらすじ

ある日、八五郎という男が年配のご隠居の家を訪れます。彼はその家にある貼り雑ぜの屏風に描かれた絵に目を奪われ、その絵の意味を問いかけます。屏風には、室町時代の著名な武士である太田道灌が描かれており、彼の「山吹の里」の逸話が示されています。ご隠居は、その背景について詳しく説明します。

道灌は、狩りの途中で強い雨に遭遇し、寄り道した貧しい一軒家に飛び込みます。そこに住んでいた若い娘は、彼に山吹の枝を差し出しながら頭を下げますが、道灌はその意味が分からず、不思議に思います。すると彼の家臣が古い和歌「七重八重 花は咲けども 山吹の 実のひとつだに なきぞ悲しき」を引き合いに出し、娘が「実の」と「蓑」の言葉を掛けて、雨具を貸すことはできないと告げているのだと教えます。この説明を聞いた道灌は、自らが歌道に疎いことを恥じ、その後、大いに詩才を磨くことを決意します。

その話を聞いた八五郎は、自分も何か面白いことをしようと考えました。八五郎はご隠居に依頼して和歌を作ってもらい、自宅に雨具を借りに来る男をその歌で追い払う腹つもりです。ところが、しばらく後に雨が降って男がやってきます。その男は傘を持っていて、実は雨具ではなく提灯を借りたいと言ってきました。

八五郎は困り果てますが、ふと「蓑を貸して欲しい」と言えば提灯を貸してもらえるのではと考え、男にそのように提案します。男は不思議そうに思いつつも従い、八五郎は先ほどの和歌を詠みます。しかし、いざ詠むと詰まってしまい、男から「それは都々逸ですか？」と尋ねられ、恥ずかしさのあまり「お前も歌道に暗いな」と返します。すると男は的確に「角が暗えから提灯を借りに来た」と応じます。

このように「道灌」は、ユーモアと失敗を通じてコミュニケーションの面白さを描いた作品です。落語では、登場人物のキャラクターが鮮明に描かれており、そのやり取りが爆笑を誘います。古典落語としての「道灌」は、現在も多くの人々に愛され、演じられています。

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