遠い世界に

「遠い世界に」

フォークグループ、五つの赤い風船が発表した楽曲「遠い世界に」（とおいせかいに）は、彼らの代表曲の一つとして広く知られています。単なる流行歌に留まらず、世代を超えて多くの人々に歌い継がれる合唱曲としても親しまれ、日本のポピュラー音楽史において重要な位置を占めています。

制作背景と楽曲性

この楽曲の作詞・作曲・編曲は、五つの赤い風船のリーダーである西岡たかしが手がけました。彼がこの曲を生み出した背景には、当時の日本のフォークソングシーンに対する独自の視点がありました。1960年代後半、フォークソングには社会的なメッセージや反戦といったテーマ性が強く求められる風潮がありましたが、西岡はそうした傾向とは一線を画し、純粋なラブソングを発表しました。彼は後に、この曲が当時のフォーク界における「反戦歌でなければならない」という暗黙の了解への、一種のプロテストとして制作されたものであると語っています。このように、社会への問いかけを内包しつつも、普遍的な愛を歌い上げる楽曲性は、「遠い世界に」が多くのリスナーの共感を呼んだ要因の一つと言えるでしょう。

楽曲の演奏面では、西岡たかし自身によるコードハープの演奏がフィーチャーされている点も特筆すべき特徴です。この楽器が奏でる独特の響きが、曲全体の叙情的でどこか懐かしい雰囲気を醸し出しています。

リリースと変遷

「遠い世界に」は、1968年5月8日に五つの赤い風船のデビューシングルとして発表された「恋は風に乗って」のカップリング曲、すなわちB面として初めて世に出ました。しかし、その翌年である1969年には、楽曲の人気を受けてA面とB面が入れ替えられ、同じ規格品番で再リリースされるという異例の経緯をたどっています。このことは、当初はB面でありながらも、「遠い世界に」がリスナーの間で強い支持を得ていたことを示しています。

また、この楽曲は彼らの単独作品だけでなく、フォークシンガーの高田渡とのカップリングアルバム「高田渡/五つの赤い風船」にも収録され、より多くの音楽ファンに届けられました。このアルバムは1969年2月に発売されており、楽曲の初期の広まりに貢献しました。

合唱曲としての普及

「遠い世界に」が持つ美しいメロディーと心に響く歌詞は、フォークソングの枠を超えて、合唱曲としても広く受け入れられることとなりました。特に、中学校の音楽教育の現場で頻繁に取り上げられるようになり、音楽之友社が発行する中学校の音楽教科書にも採用されています。これにより、この曲はリアルタイムのリスナーだけでなく、その後の世代にも歌い継がれるスタンダードとなりました。学校の合唱コンクールや卒業式などで歌われることも多く、青春時代の思い出と結びつく楽曲としても記憶されています。

NHK「みんなのうた」での展開

この楽曲の普及に大きな役割を果たした媒体の一つに、NHKの長寿番組「みんなのうた」があります。「遠い世界に」は、「みんなのうた」において二度にわたり取り上げられています。

最初は1975年10月から11月にかけてのことでした。この時の歌唱は、当時人気を博していた姉妹フォークデュオ、チューインガムが担当しました。番組で流された映像は、アニメーターである古川タクが制作した独特なタッチのアニメーションでした。このバージョンは、チューインガムのオリジナルシングルやアルバムには未収録でしたが、2011年4月27日に発売されたコンピレーションCD「NHKみんなのうた 50 アニバーサリー・ベスト 〜大きな古時計〜」に収められ、再び多くの人々に聴かれる機会を得ました。また、この1975年版の映像は、「みんなのうた」のDVD-BOX第6巻にも収録されています。

そして、長い時を経て2023年4月から5月にかけて、「みんなのうた」の放送開始61年目を記念した企画「名曲カバー」シリーズの第3弾として、パワフルな歌声が魅力の音楽ユニット、T字路sが歌唱を担当しました。映像は、アーティストの今津良樹が手がける独創的なアニメーションが使用されました。

なお、「みんなのうた」で放送された上記の二つのバージョンは、いずれもオリジナルの楽曲に含まれる3番の歌詞が省略されているという共通点があります。

結び

五つの赤い風船によって生み出された「遠い世界に」は、その独特な制作背景、美しい音楽性、そして時代を超えたメッセージ性によって、発表から半世紀以上を経てもなお、多くの人々に愛され続けています。フォークソングとしてだけでなく、合唱曲、そしてテレビ番組を通じて、様々な形で人々の心に寄り添ってきたこの楽曲は、日本の音楽文化におけるかけがえのない財産と言えるでしょう。

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