遠くへ行きたい (曲)

「遠くへ行きたい」は、作詞を永六輔、作曲を中村八大が手がけた、日本を代表する歌謡曲の一つです。

発表と初期の展開

この楽曲は、1962年にNHKで放送されていた人気番組『夢であいましょう』の企画「今月の歌」（5月）のために書き下ろされました。発表時の歌唱はジェリー藤尾が担当し、同年6月には東芝レコードからシングルレコード（JP-5133、モノラル盤）として発売されています。このシングル盤のB面には「インディアン・ツイスト」が収録されていました。ジェリー藤尾が出演した1962年の東宝映画『若い季節』では、劇中歌としても使用されています。

後にこのシングル盤は、B面を「ヤング・セブン（若い虹）」に差し替えた疑似ステレオ盤（TP-1216、後年TP-10062に規格番号変更）として再発売され、1980年代まで長期にわたり流通しました。さらに1979年には「'79 遠くへ行きたい」としてシングル再リリースもされています。

旅番組のテーマ曲として

「遠くへ行きたい」が広く国民に知られるきっかけとなったのは、1970年10月にスタートした紀行番組『遠くへ行きたい』（読売テレビ・日本テレビ系）のテーマ曲として採用されたことです。番組では長年にわたり、デューク・エイセス、永六輔自身、小林旭、古谷一行、益田宏美、オユンナ、石川さゆり、さだまさし、元ちとせ、森山良子、一青窈など、様々なアーティストがこの曲を歌い継いできました。番組放送40周年にあたる2010年1月から10月にかけては、歴代のテーマ曲が月替わりで使用されました。2014年4月以降は、歴代のオープニングテーマ曲が週替わりで流れる形式が採用され、本編中でも楽曲が使用されることがあります。

多様なメディアでの使用と影響

本楽曲は、教育の場でも親しまれています。1975年以降は中学校の音楽教科書に、そして1983年以降は高等学校の音楽教科書にも繰り返し掲載されてきました。また、TBSラジオで放送されていた『永六輔の誰かとどこかで』では、村岡実による尺八のインストゥルメンタルバージョンがオープニングテーマ曲として使われていました。

ポップカルチャーの世界でもその影響が見られます。2012年には、サントリーフーズの炭酸飲料「なっちゃん」のテレビCMで、俳優の松田翔太がこの曲の替え歌を口ずさむシーンがありました。また、赤塚不二夫のギャグ漫画「レッツラゴン」に登場するキャラクター「トーフ屋ゲンちゃん」が、「どこかトーフへ行きたい」という替え歌を歌う場面があります。

オリジナル歌唱者であるジェリー藤尾は、この楽曲を45年以上歌い続けていることについて、あるテレビ番組で「本当に難しい。この曲は、何回も歌い方変わってるんじゃないかな。あるいは意識して変えてると思う」とその奥深さを語っています。作詞を手がけた永六輔とのエピソードとして、歌詞の一節「知らない海を　ながめていたい」を、かつて「ながめてみたい」と歌っていたところ、永から「『みたい』じゃなくて、『いたい』なんだ」と指摘されたことを明かしています。永六輔は厳しい人物だったため、褒められたことは一度もなかった、とも振り返っています。

多数のカバーバージョン

「遠くへ行きたい」は、時代を超えて多くのアーティストによってカバーされています。国内ではアイ・ジョージ、尾崎紀世彦、藤圭子、グラシェラ・スサーナ、渥美清、石原裕次郎、ちあきなおみ、さだまさし、由紀さおり・安田祥子、香西かおり、坂本美雨、髙橋真梨子、島津亜矢、吉幾三、柴田淳、三山ひろし、森山直太朗など、幅広いジャンルの歌手がそれぞれの解釈で歌っています。また、番組『遠くへ行きたい』のテーマ曲を歌ったアーティストも多数存在します。さらに、海外ではフランスの歌手エンリコ・マシアスが「Ma dernière chance（私の最後のチャンス）」というタイトルでフランス語でのカバー（フランス語詞：Robert Chabrier, Enrico Macias）を発表しており、この楽曲が海を越えて愛されていることを示しています。このように、「遠くへ行きたい」は多くの人々の心に響き、歌い継がれている名曲と言えるでしょう。

もう一度検索