遠州横須賀三熊野神社大祭

遠州横須賀三熊野神社大祭とは

遠州横須賀三熊野神社大祭は、静岡県掛川市横須賀で毎年4月の第1金曜日から日曜日にかけて開催される、歴史ある祭礼です。この祭りは、江戸時代の天下祭の古い形式を今に伝える貴重な文化財として知られています。横須賀城下の三熊野神社の祭礼として、地域の人々によって大切に受け継がれてきました。

祭りの歴史

この祭りの起源は、江戸時代の元禄年間まで遡るとされています。当時から踊りを主体とした祭りが存在していましたが、現在の祭りの原型は、享保年間に第14代横須賀城主の西尾忠尚が、江戸の神田祭や山王祭りを横須賀に持ち込んだことによって形成されたと考えられています。そのため、祭りの形式には江戸の文化が色濃く反映されています。

特徴的な山車「禰里」

横須賀の祭りでは、「禰里（ねり）」と呼ばれる独特の山車が登場します。この禰里は、「一本柱万度型」と呼ばれる様式で、江戸時代の屋台の古い伝統を今に伝えています。一本の柱の上に万度と呼ばれる飾りを置き、その上に人形を飾る構造が特徴的です。禰里には漢籍から引用された格言が書かれており、その高さは約6メートルにもなります。そのため、祭りの期間中は、電線や交通信号が禰里に接触しないよう、町のインフラにも特別な配慮がなされます。

この一本柱万度型は、遠州横須賀から大井川、天竜川にかけての地域に広まり、現在でもその地域では同様の形態の祭りが実施されています。近隣地域では単に「屋台」と呼ばれることもあります。

祭囃子「三社祭礼囃子」

横須賀の祭囃子は「三社祭礼囃子」と呼ばれ、これは静岡県の無形民俗文化財第1号に指定されています。この祭囃子は、西尾忠尚が参勤交代の際に、御家人衆が習ったものが原型とされ、横須賀独自の調子が加えられて現在の形になったと伝えられています。曲目は、道中囃子としての大間、屋台下、馬鹿囃子の3曲と、役太鼓として昇殿、鎌倉、四丁目の3曲から構成されています。

祭りの参加者は、屋台を曳きながら「シタシタ」という囃し声を上げます。これは大名行列の「下に下に」という掛け声を真似たものと言われており、横須賀の祭りの影響が及んだ近隣地域でも同様の掛け声が聞かれます。

子授けの祭りとしての側面

三熊野神社は、子授けの神様としても古くから信仰を集めています。祭りの期間中には、子授けの神事も行われます。この神事は、「おねんねこさま」と呼ばれる神子人形を抱いて、三熊野神社から横須賀の町を巡り、お祓いを受けるというものです。この神事には、遠方からも多くの人々が訪れ、横須賀の祭りの名物の一つとなっています。三熊野神社は701年、文武天皇の皇后藤原宮子の皇子（後の聖武天皇）誕生の際に熊野本宮をこの地に祀ったことが起源とされています。

文化財としての価値

遠州横須賀三熊野神社大祭は、その歴史的、文化的な価値が認められ、2019年には「三熊野神社大祭の祢里（ねり）行事」として、国の記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財（選択無形民俗文化財）に選定されました。この祭りは、地域の人々の誇りであり、未来に受け継がれるべき大切な文化遺産です。

まとめ

遠州横須賀三熊野神社大祭は、江戸時代の文化と伝統を色濃く残す貴重な祭りです。一本柱万度型の禰里、独特の祭囃子、子授けの神事など、見どころが多く、毎年多くの人々を魅了しています。この祭りは、地域の歴史と文化を今に伝えるとともに、地域の人々の連帯と絆を深める役割も担っています。

もう一度検索