遠藤現夢

遠藤現夢：磐梯高原緑化の父

遠藤現夢（えんどう げんむ、1864年2月17日 - 1934年12月6日）は、明治から昭和時代にかけて活躍した地域開発者です。本名は遠藤十次郎といい、福島県北部にある磐梯高原、特に裏磐梯の緑化に尽力した人物として、「裏磐梯緑化の父」と呼ばれています。

生涯

1864年（文久4年）、会津藩のお膝元である会津若松の商家・瀧口太右衛門の十二男として生まれました。その後、醸造業を営む遠藤家の養子となり、幼少の頃から剣術を学び、真一刀流を極めます。自宅に道場を開き、近所の子どもたちに剣術を教えるなど、剣術の普及にも貢献しました。

現夢による植林活動は、鶴ヶ城跡から始まりました。城の近くに住んでいたことから、松平家より城の手入れを任されます。1908年（明治41年）、城跡近くに陸軍歩兵連隊が設置されたことを記念し、同志とともに約1000本のソメイヨシノを植えました。その後、会津若松市内の墓山、松平家の霊廟、猪苗代町の見禰山にもスギの植林を行っています。

1888年（明治21年）の磐梯山噴火により、裏磐梯一帯は岩屑なだれに覆われ、荒地と化しました。現夢は、この地を再び野鳥がさえずる森に戻したいという強い願いから、約2年の歳月をかけて1340ヘクタールにも及ぶ広大な土地への植林を成し遂げ、最終的にはこの地の払い下げを受けました。

20世紀初頭、日本各地で幹線鉄道が開通し始めた頃、遠藤は1914年（大正3年）に全線開通したばかりの磐越西線を利用し、アカマツ5万本、ウルシ2万本、スギ3万本、合計10万本の苗木を新潟方面から運び込みました。さらに、猪苗代からは馬車を使って裏磐梯方面へと輸送しました。しかし、岩屑なだれに覆われた土地は道が埋没し、大きな岩が転がり、泥濘と化した荒地を進むことは非常に困難を極め、新たな道路を造りながらの前進となりました。

植林に関する知識は、中村弥六の協力を得ました。雪に覆われる冬の間も柳沼近くに番小屋を建て、斎藤丹之丞が中心となって苗木の生育を見守りました。しかし、植林事業には多額の費用がかかり、本業も傾き始めたといいます。

その後、遠藤は森林組合を結成し、さらなる緑化活動に従事しますが、磐梯山の旧噴火口に注水して温泉を造成する事業を始めます。この事業は成功するものの、組合の法規に抵触し、不評を買ってしまいます。苦悩の末に病に倒れ、1934年（昭和9年）に73歳でこの世を去りました。

人物

戊辰戦争当時、現夢は幼く、戦乱によって会津の街が焦土と化した光景を目の当たりにしました。この経験が、彼が裏磐梯を緑に変えようとした動機の一つになったと言われています。現在、私たちが目にすることができる緑豊かな裏磐梯は、現夢をはじめとする多くの人々の思いと努力の結晶なのです。

現夢が生前に建てた墓碑と、磐梯山噴火の犠牲者を弔う慰霊碑は、五色沼（柳沼）のほとりに残されています。墓碑は磐梯山噴火の際に落下した巨石の下にあり、妻のイクと共に埋葬されています。碑石には辞世の句として、「なかきよに みしかきいのち 五十年 ふんかおもへば 夢の世の中」と刻まれています。

墓の傍らには、1961年（昭和36年）に息子の義之助が亡き父の偉業を後世に伝えるために建立した石碑があり、碑の裏側には「とこしえに 来りつたへよ 時鳥 知る人ぞ知る 父の功を」という句が刻まれています。

遠藤現夢の功績は、現在も磐梯高原の美しい自然として私たちに受け継がれています。

参考文献

会津大事典（国書刊行会）
ぼくたち、わたしたちの北塩原村（北塩原村教育委員会）

関連項目

磐梯高原
磐梯朝日国立公園

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