遺伝子導入

遺伝子導入（transgenesis）は、外来性の遺伝子を生物の細胞内に導入するプロセスを指します。この技術によって、導入された遺伝子が発現し、生物の形質が変化したり、新たな能力を獲得したりすることがあります。遺伝子導入は、基礎研究から応用研究まで、幅広い分野で利用されています。

遺伝子導入の種類

遺伝子導入は、対象となる細胞の種類や導入方法によって、異なる名称で呼ばれることがあります。

形質転換（transformation）: 細菌、酵母、植物細胞への遺伝子導入
トランスフェクション（transfection）: 動物細胞への遺伝子導入
形質導入（transduction）: ファージやウイルスを用いた遺伝子導入

遺伝子導入の手段

遺伝子導入を効率的に行うためには、生物学的、化学的、物理的な手法が用いられます。これらの手法は、細胞株、初代培養細胞、動物、植物、細菌など、様々な対象に適用できます。

生物学的手法: ウイルスベクターを用いる方法が一般的です。ウイルスは、自身の遺伝子を細胞内に導入する能力を持っているため、外来遺伝子を効率的に細胞へ運搬する手段として利用されます。

化学的手法: リポフェクション法や、ポリマーやペプチドを使用する方法があります。これらの方法は、DNAを細胞膜を通過しやすい複合体を形成させ、細胞内への導入を促進します。

物理的手法: 電気穿孔法（エレクトロポレーション）、パーティクルガン法、超音波を用いる方法（ソノポレーション）などがあります。電気穿孔法は、細胞膜に一時的に微小な穴を開け、DNAの侵入を助けます。パーティクルガン法は、DNAを付着させた微粒子を細胞に打ち込みます。ソノポレーションは、超音波を用いて細胞膜の透過性を高めます。

細菌への導入: 塩化カルシウム存在下でコンピテントセル化した菌にヒートショックを与える方法が広く用いられています。この方法では、細菌の細胞膜の透過性を高め、DNAを取り込みやすくします。

遺伝子導入の方法：一過的発現と安定発現

遺伝子導入には、導入された遺伝子が一時的に発現する一過的な方法と、ゲノムに組み込まれて安定的に発現する方法があります。

一過的発現: 導入された遺伝子は染色体に組み込まれず、一時的に細胞内で発現します。この方法は、短期間での遺伝子機能の解析に適しています。
安定発現: 導入された遺伝子をゲノムに組み込むことで、長期的な発現を可能にします。トランスポゾンを利用してゲノムにランダムに挿入する方法や、リコンビナーゼを用いて特定のゲノム上の位置に挿入する方法があります。

遺伝子導入の応用

遺伝子導入は、遺伝子工学における基盤技術であり、様々な分野に応用されています。

遺伝子組み換え作物: 遺伝子導入によって、病害虫抵抗性や収量性が向上した作物が開発されています。
遺伝子治療: 遺伝子導入を用いて、遺伝性疾患の治療や、がん治療などへの応用が研究されています。
基礎研究: 遺伝子の機能解析、遺伝子破壊や遺伝子ノックダウン技術、iPS細胞の作成など、様々な研究に不可欠な技術です。

遺伝子導入技術は、生命科学研究において非常に重要な役割を果たしており、その応用範囲はますます広がっています。

参考資料

* 遺伝子導入 - 脳科学辞典

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