郡斎読書志

『郡斎読書志』：南宋の蔵書と読書文化を映す鏡

『郡斎読書志』は、南宋時代の学者・晁公武によって編纂された私家蔵書目録です。陳振孫の『直斎書録解題』と並び、南宋期における書籍の流通や出版状況を知る上で、極めて重要な史料として高く評価されています。本書は、単なる書目リストではなく、各書籍の内容や特徴を詳細に記した解題を付した点が大きな特徴です。それによって、当時の読書文化や学問動向を深く理解することが可能となります。

著者：晁公武とその周辺

著者の晁公武は、字を子止といい、済州鉅野県の出身です。北宋末期の動乱を逃れて四川に移住し、紹興年間には、蔵書家として知られた井度の属僚として仕えました。井度が晩年、自身の蔵書を晁公武に譲ったことが、本書編纂の大きなきっかけとなりました。その後、晁公武は四川を中心に地方官を歴任しながら、膨大な蔵書を精査し、解題を執筆していったのです。栄州知州在任中に完成した本書は、約2万5千巻もの蔵書を網羅する大規模なものでした。かつて開封府昭徳坊に住んでいたことから、『昭徳先生郡斎読書志』という別名も持っています。

刊本の歴史：多様な版本と研究の継承

『郡斎読書志』は、現在までに複数の版本が知られています。主なものとしては、淳祐9年（1249年）に衢州で刊行された衢州本と、趙希弁が所持していた蜀刻本と衢州本を底本として編まれた袁州本があります。衢州本は全20巻からなる大部なものであり、袁州本はそこに趙希弁による「後志」2巻と自身の蔵書目録である「附志」1巻を加えた7巻本です。

『四庫全書総目提要』では袁州本を採用していますが、その後、衢州本に趙希弁の「附志」と清代の学者・王先謙による校補を加えた版本が、より重視されるようになりました。さらに、1930年代には国立北平故宮博物院において宋版の袁州本が発見され、「四部叢刊三編」に影印収録されるなど、本書の研究は現代に至るまで継続されています。1987年には上海古籍書店から現代的な点校本も刊行されており、研究者や愛書家にとって貴重な資料として広く利用されています。

『郡斎読書志』の意義：南宋文化への窓

『郡斎読書志』は、単なる書目録にとどまらず、南宋時代の知的・文化状況を深く理解するための貴重な資料です。膨大な蔵書目録を通して、当時の書籍の出版状況、学問の動向、そして人々の読書嗜好を垣間見ることができます。また、各書籍への詳細な解題は、現代の研究者にとっても、文献研究を行う上で欠かせない手がかりを与えてくれます。本書を通じて、私たちは南宋という時代、そしてその豊かな文化に深く触れることができるのです。本書の研究は、今後も継続され、南宋文化の理解をさらに深めていくことでしょう。

関連事項

目録学
中国の書籍史
* 南宋文化史

もう一度検索