郷通子

郷通子（ごう みちこ）は、1939年4月15日に生まれ、日本の生物学者・生物物理学界において顕著な功績を残した研究者です。名古屋大学名誉教授、そしてお茶の水女子大学の学長も務められました。専門は生命科学の根幹に関わる生物物理学であり、特にタンパク質の構造と機能、そしてその進化の過程に深い洞察を与えました。1967年には名古屋大学から理学博士の学位を取得しており、その際の博士論文では「生体高分子の統計力学とそれのポリヌクレオチドの融解転移への応用」というテーマを探究しています。私生活においては、生物物理学者であり京都大学名誉教授の郷信広氏を夫に持ちます。

郷氏は福岡県に生まれ、その後東京都立両国高等学校を経て、1962年にお茶の水女子大学理学部物理学科を卒業しました。研究者としてのキャリアを本格的にスタートさせたのは、名古屋大学大学院理学研究科物理学専攻の博士課程を修了した1967年のことです。その後、コーネル大学での博士研究員や日本学術振興会の奨励研究員を経て、九州大学で非常勤講師を務めました。1973年からは九州大学理学部生物学科の助手に着任し、研究・教育活動に従事しました。1989年には名古屋大学理学部の教授に昇任し、教育・研究の指導的立場を担うことになります。1996年からは名古屋大学大学院理学研究科教授として、また東京大学細胞生物学研究所の客員教授も併任し、研究領域を広げました。2003年に名古屋大学名誉教授となった後、長浜バイオ大学に移り、バイオサイエンス学部の初代学部長および教授を務めました。そして2005年には母校であるお茶の水女子大学の学長に就任し、同時に長浜バイオ大学の特別客員教授も務めるなど、そのキャリアは多岐にわたります。

郷氏の最も特筆すべき研究業績の一つは、タンパク質の立体構造における「モジュール」という概念を初めて提唱したことです。この概念は、遺伝子のエクソンとイントロンの構造を解析するGO Plotという手法を用いた研究から生まれました。タンパク質が単一の長い鎖としてではなく、機能や構造の単位となる複数の「モジュール」が組み合わさってできているという考え方は、その後のタンパク質科学や分子進化の研究に大きな影響を与えました。この画期的な発見は、「タンパク質の構造単位・モジュールの発見」として、2004年に中日文化賞を受賞するに至っています。

学術界だけでなく、郷氏は社会に対しても多大な貢献を行いました。2000年には日本生物物理学会の会長を務め、学術の発展に尽力しました。また、学校法人関西文理総合学園の理事（2004年）を務めるなど、教育機関の運営にも関わりました。さらに、国の科学技術政策に関わる総合科学技術会議の有識者議員や、国際協力に関わる日本ユネスコ国内委員会の副会長を歴任しました。文部科学省の中央教育審議会委員や、国立大学法人評価委員会の専門委員、日本学術振興会のCOEプログラムやグローバルCOEプログラムのプログラム委員会における要職を務めるなど、日本の科学技術政策や高等教育政策の形成に深く関与しました。

これらの長年にわたる教育、研究、そして社会貢献に対する功績は高く評価されており、2002年には内藤記念科学振興賞、そして2017年には瑞宝中綬章を受章しています。郷通子氏は、生物物理学における独創的な研究、特にタンパク質モジュールの概念提唱を通じて、世界の生命科学研究に新たな視点をもたらすと同時に、教育者、行政委員としても日本の科学振興と人材育成に大きく貢献した人物と言えるでしょう。彼女の研究と思想は、今後も多くの研究者に影響を与え続けることでしょう。

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