都筑道夫

都筑道夫：多様なジャンルを縦横無尽に駆け巡った作家

都筑道夫（つづき みちお、1929年7月6日-2003年11月27日）は、日本の推理小説、SF小説、そして怪談や時代小説、さらには評論や随筆を手掛けた多才な作家です。本名は松岡巖（まつおか いわお）で、小林菖夫、淡路瑛一、柴田梅玉、伊藤照夫など、数多くのペンネームを使用していました。彼の兄は、夭折した落語家の鶯春亭梅橋です。

早稲田実業学校中退から編集者、そして作家へ

東京都文京区関口で、漢方薬局と的屋を営む家に生まれた都筑は、関口台町小学校卒業後、早稲田実業学校に進学しますが、1945年12月に中退。自身の学歴を「小学校しか出ていない」と語るほどでした。幼少期は、3歳上の兄の影響で映画、推理小説、落語、江戸文学、芝居に親しみ、特に芝居にのめり込み、劇作家を目指して正岡容に師事しようとします。しかし、小説の才能を見出され、小説家への道を歩むことになります。

生活のため、1947年頃から約2年間、新月書房で雑誌『スバル』の編集に携わりながら、複数のペンネームで時代小説を発表していました。20歳の頃、「淡路龍太郎」など複数のペンネームを使い分けていた都筑は、本格的に作家として活動していくために中心となるペンネームとして「都筑道夫」を考案します。都筑道夫名義で初めて発表された作品は、「木彫りの鶴」という左甚五郎を主人公にした時代小説でした。

その後、大坪砂男に師事し、その独特な生活を間近で見て影響を受けました。読物雑誌の廃刊により、オペラ口紅宣伝部でコピーライターとして働きながらも、松村喜雄らと協力してフランス小説や英米小説の翻訳を行い、『探偵倶楽部』などに携わります。自身は英語を独学で習得したと述べており、その翻訳スキルは坪内祐三から「言葉に対する感覚が天才的な人」と評されるほどでした。

早川書房での編集者としての活動

1956年、早川書房の田村隆一に呼び出され、『エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン』の編集に携わることになります。初代編集長が辞職したため、急遽編集主任として参加し、作品選定や解説を担当しました。その後、ハヤカワ・ミステリやハヤカワ・ファンタジイ（後にハヤカワ・SFシリーズに改称）の立ち上げにも貢献し、講談社のSFシリーズの企画にも参加するなど、日本のミステリ、SF界の発展に大きく貢献しました。さらに、久保書店の中田雅久にアメリカのハードボイルド専門誌MANHUNTを紹介し、日本版『マンハント』の創刊にも携わっています。

多彩なジャンルの執筆活動と独自の作風

1959年に早川書房を退社し、本格的な執筆活動を開始。代表作として「贋作カート・キャノン」シリーズ、「なめくじ長屋」シリーズ、「キリオン・スレイ」シリーズなど、多くのシリーズ作品を生み出しました。ショートショートは500編を超えるとも言われています。推理小説以外に、SF、怪談、時代小説、艶笑小説など、多様なジャンルに挑戦し、評論家や随筆家としても活躍しました。

都筑の作風は、初期作品では奇抜な設定や視点の工夫が特徴的でした。「やぶにらみの時計」では主人公を「きみ」という二人称で表現し、「猫の舌に釘を打て」では記述者が探偵、犯人、被害者の一人三役をこなしています。「三重露出」では作中作として翻訳風ストーリーが並行して語られるなど、実験的な試みが見られました。

その後は、個性的な名探偵を生み出すことに挑戦し、「なめくじ長屋」シリーズの砂絵師「センセー」、幽霊専門探偵「物部太郎」、詩人「キリオン・スレイ」、安楽椅子探偵「退職刑事」など、魅力的なキャラクターが登場します。都筑は推理小説を「謎と論理のエンタテインメント」と捉え、トリックよりもロジックを重視していました。

オセロとリバーシに関する見解

1973年、オセロの発売直後、都筑は子供の頃の記憶とオセロの類似性に疑問を持ち、調査を行いました。その結果、オセロは19世紀から存在するイギリスのゲーム「リバーシ」と同一であることをいち早く指摘し、発売元の海外輸出戦略を批判しました。

受賞歴と弟子たち

2001年には『推理作家の出来るまで』で第54回日本推理作家協会賞（評論その他の部門）を受賞、2002年には第6回日本ミステリー文学大賞を受賞しました。「都筑道夫の創作講座」では深堀骨や畠中恵などを輩出しました。

2003年11月27日、ハワイ州ホノルルの病院で動脈硬化症による心臓発作のため74歳で死去。長年東京で暮らした後、2002年に妻を亡くし、長女のいるホノルルに移住していました。彼の作品群は、今もなお多くの読者に愛され続けています。

主要作品リスト

彼の作品リストは膨大で、シリーズもの、単発もの、ショートショートなど多岐に渡ります。「近藤＆土方」シリーズ、『紙の罠』『悪意銀行』、『なめくじ長屋捕物さわぎ』シリーズ、『キリオン・スレイ』シリーズ、『退職刑事』シリーズ、「ひとり雑誌」シリーズ、『猫の舌に釘をうて』『三重露出』『やぶにらみの時計』など、挙げればきりがありません。これらの作品は、彼の多彩な才能と独自の視点、そして軽妙な語り口が凝縮されています。

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