鄶

鄶（かい）

鄶は、西周時代に存在した諸侯国です。現在の河南省鄭州市新鄭市北西から新密市南東にかけての位置にありました。この地域は、古代中国において重要な交通路が交錯する場所であり、戦略的にも重要な位置を占めていました。

歴史

鄶は、西周王朝の権威が衰退し、諸侯の勢力が台頭する中で、独立した国家としての歩みを始めました。しかし、その歴史は長くは続きませんでした。周の平王が東遷した後、鄶は次第に隣国の鄭の影響下に入り、最終的には併合されることになります。

滅亡

鄶の滅亡については、複数の歴史書に異なる記述が見られます。これらの記述を総合的に考察することで、当時の政治情勢や人間関係の複雑さを垣間見ることができます。

『国語』鄭語：
西周末期の幽王時代、太史伯という人物が鄭の桓公に対し、天下の情勢を分析しました。その中で、周の東都である成周周辺で勢力を拡大するため、まずは鄶と虢に財産と妻子を預け、その後両国を滅ぼして根拠地とする策略を提案しました。この策略は桓公とその子である武公によって実行されたとされています。

『春秋公羊伝』桓公十一年：
鄭が東遷した後、一時的に留（現在の江蘇省徐州市沛県付近）に拠点を置いていたが、鄭の武公と鄶の君主の夫人が不義の関係にあったため、武公は鄶を滅ぼし、その故地に遷都したと記されています。この記述は、政治的な策略だけでなく、個人的な感情や人間関係が国家の運命を左右した可能性を示唆しています。

『国語』周語：
春秋時代の周の襄王の時代の大夫である富辰が、鄶の君主の夫人である叔妘によって、鄶が破滅に導かれたと述べています。これは、女性が政治に影響を与えた一例として興味深い記述です。

『今本竹書紀年』：
周の平王4年に、鄭によって鄶が滅ぼされたとされています。この記述は、他の記録と比べて比較的簡潔であり、事件の発生時期を明確に示しています。

『漢書』地理志：
臣瓚注によると、周の幽王が敗死した後、鄭の武公2年に鄭が鄶を滅ぼしたとされています。この記述は、幽王の死という大きな出来事を背景として、鄶の滅亡を捉えています。

これらの記述を総合すると、鄶の滅亡には、政治的な駆け引き、個人的な感情、そしてタイミングが複雑に絡み合っていたことがわかります。鄶の歴史は、古代中国の複雑な政治情勢と、人間ドラマを映し出す鏡のような存在と言えるでしょう。

まとめ

鄶は、西周時代に栄えた小国でしたが、その勢力は周辺の強国に及ばず、最終的には鄭によって併合されました。その滅亡の背景には、太史伯の策略、武公の不義、叔妘の行動など、様々な要素が複雑に絡み合っていたことがわかります。鄶の歴史は、古代中国の歴史を研究する上で重要な事例の一つです。

参考文献

楊伯峻《春秋左伝注》 ISBN 7101002625
童書業《春秋左伝研究》 ISBN 7101051448

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