春秋公羊伝

春秋公羊伝：春秋三伝の一つ

『春秋公羊伝』は、『春秋』という古代中国の歴史書に対する注釈書です。『春秋左氏伝』、『春秋穀梁伝』と共に、春秋三伝として知られています。斉の国で発展した学問体系と考えられており、春秋学という学問分野の基礎を築いた重要な文献と言えます。「復讐説」など、後世の思想に大きな影響を与えた重要な概念が『公羊伝』で解明されています。

作者と成立過程

『公羊伝』の作者については、『漢書』芸文志では「公羊子」と記されているのみで、具体的な名前は明記されていません。後[[漢]]の戴宏は、孔子の弟子である子夏から公羊高へと伝えられ、その後も何代にもわたって受け継がれてきたという系譜を示しています。しかし、戴宏の記述は図讖（後[[漢]]で流行した神秘思想に基づく予言書）からの引用であり、信憑性には疑問が残ります。

一方で、董仲舒と胡毋生が『公羊伝』を伝えたことは『史記』にも記されており、確からしいと考えられています。多くの先秦の書物と同様に、『公羊伝』も長い年月をかけて多くの人の手によって加筆修正され、最終的に漢の景帝の時代に現在の形にまとめられたと考えられています。

注釈の形式

『公羊伝』は、『春秋』本文の一字一句に対して、問答形式で解釈を記しているのが特徴です。例えば、隠公元年の「元年、春王正月」という記述に対しては、次のような問答が展開されます。

元年者何（「元年」とは何でしょうか？）
君之始年（君主の始めの年のことです）
春者何（「春」とは何でしょうか？）
歳之始也（歳の始めのことです）
王者孰謂（「王」とはどなたのことを言っているのでしょうか？）
謂文王也（周の文王のことを言っています）
曷為先言王而後言正月（どうして先に「王」と言い、後に「正月」と言うのでしょうか？）
王正月也（周王の暦に従った正月だからです）
* …

このように、本文の細部にわたって詳細な解釈が加えられており、単なる歴史書の注釈にとどまらず、独自の思想体系が構築されていることがわかります。

公羊学の展開と影響

公羊学とは、『春秋』を『公羊伝』に基づいて解釈する学問であり、さらにそこから導き出される孔子の理想を現実政治に実現しようとする政治思想でもあります。『公羊伝』は今文学、『左氏伝』は古文学と分類されることから、公羊学と古文学を巡る今古文論争との関連も指摘されています。

前[[漢]]の董仲舒によって体系化され、後[[漢]]の何休によって大成された公羊学は、その後は『左氏伝』に基づく左伝学に押され、衰退していきました。しかし、清代になると常州学派によって再評価され、清末の学問や政治思想に大きな影響を与えました。戊戌変法を唱えた康有為なども、公羊学の思想に影響を受けていました。

翻訳

『春秋公羊伝』は、日本語、英語など複数の言語に翻訳されています。代表的な翻訳としては、日原利国氏による抄訳、岩本憲司氏による全訳、H. Miller氏による英訳などがあります。これらの翻訳は、『公羊伝』の内容を理解する上で貴重な資料となっています。

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