酒呑場遺跡

酒呑場遺跡

酒呑場遺跡は、山梨県北杜市（旧北巨摩郡長坂町長坂上条）に位置する縄文時代の集落遺跡です。八ヶ岳南麓の山体崩壊によって形成された平坦な小山の上に立地しています。周辺には酪農試験場や農業試験場などの施設があり、JR中央本線が近くを通っています。この地域は湧水が豊富で、縄文時代の遺跡が数多く分布しています。

立地と景観

八ヶ岳山麓は湧水が多く、縄文時代の遺跡が点在する地域です。縄文中期には、甲府盆地東部の釈迦堂遺跡群のような拠点集落が山麓から盆地へ移動しましたが、酒呑場遺跡はそれに匹敵する重要な拠点集落でした。北杜市長坂町の市街地周辺では遺跡の密度が低い一方、酒呑場遺跡を境に南へ行くと遺跡の密度が高くなる傾向があります。八ヶ岳山麓には縄文後期・晩期の配石遺構を伴う遺跡も見られますが、酒呑場遺跡の南には縄文晩期の長坂上条遺跡があります。

発掘調査と遺構・遺物

酒呑場遺跡は、1950年に建設された山梨県酪農試験場内にあり、1994年以降、施設の増改築に伴い4度にわたる発掘調査が行われました。その結果、縄文時代の住居跡220軒、土坑5850基が検出されました。出土品は、土器や石器が中心ですが、装身具に使われたヒスイ大珠も原石や加工道具と共に出土しています。また、古墳時代前期の住居跡や掘立柱建物跡、中近世の溝なども見つかっています。

縄文時代の集落は、諸磯b式期に始まり、環状集落の五領ヶ台式期、井戸尻式期を経て曽利式期に至る3つの時期に区分されます。その後、拠点集落は長坂上条遺跡へと移りました。2013年には、出土品のうち土器・土製品463点、石器・石製品220点が国の重要文化財に指定されています。

ダイズ土器の発見

山梨県立博物館では、土器内部の植物圧痕を調べる研究を行っており、2007年に酒呑場遺跡から出土した縄文中期の土器の把手部分から、栽培ダイズの圧痕が発見されました。この発見は、レプリカ・セム法による観察で栽培植物であることが確認されました。また、同時期に都留市の中谷遺跡から出土した土器からは、穀物害虫であるコクゾウムシも検出されています。

さらに、2009年には縄文中期前葉から中葉にかけての住居跡から出土した土器片から、ダイズ、ツルマメ、アズキ亜属の圧痕が確認されました。同時に、北杜市大泉村の天神遺跡出土の縄文前期土器からもダイズ圧痕が確認されています。

これらの発見は、ダイズの栽培が従来考えられていた弥生時代よりも遡り、縄文時代前期にまで及ぶ可能性を示すもので、縄文農耕の研究において非常に重要な発見とされています。ただし、土器内部への意図的な混入の可能性も指摘されており、今後の研究が待たれるところです。

脚注

参考文献
『酒呑場遺跡（第1・2次調査）』（遺構編、1997.3）
『酒呑場遺跡（第3次）』（遺構編-全編、1997）
『酒呑場遺跡（第3次）』（遺構編-後編、1998.3）
『酒呑場遺跡（第4次）』（2003.3）
『酒呑場遺跡（第1～3次）』（遺物編-図版編、2004.3）
「酒呑場遺跡」『山梨県史資料編1考古（遺跡）』
中山誠二・長沢宏昌・保坂康夫・野代幸和・櫛原功一・佐野隆「山梨県酒呑場遺跡の縄文時代中期の栽培ダイズGlycine max」『研究紀要』（第24号、山梨県立考古博物館・山梨県埋蔵文化財センター、2008年）
野代幸和「酒呑場遺跡の土坑について－第1～2次調査（A～E区）を中心に-」『研究紀要』（第24号）
中山誠二・長沢宏昌・保坂康夫・野代幸和・櫛原功一・佐野隆「レプリカ・セム法による圧痕土器の分析（2）―山梨県上ノ原遺跡、酒呑場遺跡、中谷遺跡―」『山梨県立博物館研究紀要』（第2号、2008年）
中山誠二・長沢宏昌・保坂康夫・野代幸和・櫛原功一・佐野隆「レプリカ・セム法による圧痕土器の分析（3）―山梨県天神遺跡、酒呑場遺跡-」『山梨県立博物館研究紀要』（第3号、2009年）
外部リンク
* 遺跡トピックスNo.0237酒呑場遺跡（山梨県）

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