酸化銀電池

酸化銀電池：小型で高性能な一次電池

酸化銀電池は、ボタン型で小型の電子機器に広く使用されている一次電池です。銀電池、または銀亜鉛電池とも呼ばれ、その優れた特性から、特殊用途にも利用されています。

電池の仕組み

酸化銀電池は、正極に酸化銀(I)、負極にゲル状の亜鉛、電解液に水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムを用いた電池です。化学反応は以下の通りです。

正極:

Ag₂O + H₂O + 2e⁻ → 2Ag + 2OH⁻

負極:

Zn + 2OH⁻ → ZnO + H₂O + 2e⁻

亜鉛が電解液と反応して水素を発生するのを防ぐため、従来は亜鉛の表面を水銀で覆う処理がされていました。しかし、近年は水銀フリーの製品も開発され、環境への負荷を低減する努力が進んでいます。

特長と性能

酸化銀電池の主な特長は以下の通りです。

高エネルギー密度: 重量エネルギー密度、体積エネルギー密度ともに高い値を示します。
安定した電圧: 放電末期まで電圧降下が少ないため、安定した電力を供給します。
長寿命・低自己放電: 長期間保管しても性能が低下しにくく、自己放電が少ないため、長期保存が可能です。
高い機械的強度: 耐久性に優れています。
低内部抵抗: 積層化が容易です。
広い動作温度範囲: -40℃～+50℃と、幅広い温度範囲で動作します。
過充電、過放電に強い: 充電や放電の際の負担が少ないです。

一方で、高価であることや充電できないこと、液漏れする可能性があることなどが欠点として挙げられます。

歴史と用途

酸化銀電池は、かつては最も高価で高性能な電池でした。その長寿命と安定性から、腕時計、補聴器、カメラ、電子体温計などの小型電子機器に広く使用されてきました。また、軍用品や宇宙開発など、長期保存が必要な特殊用途にも利用されてきました。

スプートニク1号やアポロ計画の宇宙船、月面車などにも酸化銀電池が使用されていたことは有名です。しかし、銀の価格高騰やアルカリボタン電池、リチウム電池、太陽電池などの登場により、民生用途での使用は減少しました。

現在でも、長期間安定した電力を供給する必要がある用途、例えば軍用品の火器信管や長期間動作が必要な機器のバックアップ電源などでは、酸化銀電池が依然として重要な役割を果たしています。

電池型番について

酸化銀電池には、SR41、SR41W、SR41SWなど、末尾に異なる記号が付いたものがあります。これは、電解液の種類や用途の違いを表しています。

記号なし/W: 水酸化カリウム電解液を使用し、重負荷・短時間使用向けです。
* SW: 水酸化ナトリウム電解液を使用し、軽負荷・長時間使用向けです。

銀・亜鉛二次電池

反応式は一次電池と同じですが、充電可能な構造を持つ銀・亜鉛二次電池も存在しました。高性能でしたが、充電サイクルが少なく、現在はリチウムイオン電池などに代替されています。

使用上の注意点

酸化銀電池を使用する際には、電解液の種類や使用電流に注意が必要です。また、長期間保管すると、端子部分に結晶化したアルカリが析出することがあります。これは、乾布で除去することで再使用できる場合もありますが、機器の腐食に繋がる可能性もあるため注意が必要です。

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