釋迦ヶ嶽雲右エ門

釈迦ヶ嶽雲右エ門：稀代の巨漢力士の生涯

釈迦ヶ嶽雲右エ門（しゃかがたけ くもえもん、1749-1775）は、島根県安来市出身の元大相撲力士です。本名は天野久富（あまのひさとみ）。その圧倒的な体格と、大関としての実力から、相撲史に名を刻む存在となりました。

身長226cm、体重172kgという、江戸時代においては異例の大柄な体躯。多くの巨漢力士が実力不足に終わる中、釈迦ヶ嶽は並外れた実力を持つ力士として知られていました。しかし、病弱であったとも言われ、顔色が悪く、目は濁っていたと伝えられています。

彼の相撲人生は、大坂相撲で「大鳥井」の四股名で看板大関として華々しく幕を開けました。その後、江戸相撲に転向し、「釈迦ヶ嶽」の四股名で活躍。明和7年11月場所では6勝1預1休の優勝相当成績を収め、翌明和8年3月場所でも6勝1敗1休と好成績を残しました。その後も関脇として活躍しましたが、病のため休場する場面も見られました。

彼の通算成績は23勝3敗1分1預20休。大関在位は2場所と短かったものの、3度の優勝相当成績を収めるなど、その力は折り紙付きでした。安永3年4月場所を最後に土俵から姿を消し、安永4年3月15日（旧暦2月14日）、27歳という若さで亡くなりました。釈迦の命日と一致したこの死は、彼の四股名と相まって、多くの人々に不思議な縁を感じさせたと言われています。

釈迦ヶ嶽の巨体ゆえの逸話も数多く残されています。例えば、摂津国の住吉神社へ参拝した際、茶店の代金を2階の窓から支払ったという話や、約38cmもある草鞋を履いていたことなどです。しかし、その巨体ゆえに日常生活にも不便を感じており、人混みを嫌うなど、内向的な一面もあったようです。

彼の才能は、時の権力者にも認められました。安永2年、後桜町天皇に召され、関白殿上人らの前で土俵入りを披露。天皇から冠の緒2本を賜ったという記録が残っています。この出来事は、釈迦ヶ嶽の主君である出羽守（松平治郷）にも伝えられ、彼はこの緒を神棚に祀りました。そして、釈迦ヶ嶽の死後、その神棚が激しく揺れたことから、出羽守はこれを気味悪く思い、出雲大社に奉納したと言われています。

現在、東京都江東区の富岡八幡宮には、釈迦ヶ嶽の等身大の碑が建立されており、その偉業を偲ぶことができます。

彼の弟、稲妻咲右エ門も大関に昇進した兄弟力士であり、大相撲史上初の兄弟幕内力士としても知られています。

釈迦ヶ嶽雲右エ門は、その圧倒的な体格と実力、そして短い生涯によって、大相撲の歴史に大きな足跡を残した力士と言えるでしょう。彼の生き様は、後世の人々にも語り継がれる、伝説的な存在として記憶されています。彼の早すぎる死は、多くの人々の惜しみない弔意を呼び、今もなお、多くの謎と、そして敬意とともに語り継がれています。

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