重光昭夫

重光昭夫（韓国名：辛東彬、シン・ドンビン）は、日韓両国にわたるロッテグループの経営を牽引する実業家です。

1955年2月14日、東京都で生まれました。ロッテグループ創業者である重光武雄氏の次男であり、母親は日本人です。幼少期に渋谷区松濤の幼稚園に通った後、青山学院の初等部から大学まで進み、経済学部を卒業しました。さらに、アメリカのコロンビア大学で経営学修士（MBA）を取得し、国際的な視点を養いました。

キャリアは日本の野村証券からスタートしました。1981年から約7年間、主にロンドン支店で勤務し、グローバルなビジネス感覚を磨きました。1988年に日本のロッテ商事に入社し、1990年からは韓国ロッテグループの一員として、韓国石油化学の役員に就任。これを皮切りに、コリアセブン、ロッテドットコム、ロッテショッピングなど、韓国ロッテの主要事業会社で役職を歴任し、グループ内での影響力を高めました。2011年には韓国ロッテグループ会長に昇進しました。

ロッテグループでは、創業者の辛格浩（重光武雄）氏が総括する体制のもと、日本事業は長男の辛東柱（重光宏之）氏が、韓国事業は次男である重光昭夫がそれぞれ実質的な運営を担う形が長らく続きました。2008年頃からは、韓国ロッテにおける重光昭夫の支配力が強まったと見られています。韓国プロ野球チーム、ロッテジャイアンツへの大規模な投資や初の外国人監督招聘なども、彼による韓国ロッテ系列強化の一環と解釈されました。

日本のプロ野球チーム、千葉ロッテマリーンズの経営にも深く関わりました。1991年に球団社長代行に就任すると、本拠地を川崎球場から千葉マリンスタジアムに移し、球団名を変更するなど、チーム改革を断行しました。オーナー代行を経て代表取締役に就任し、その後会長オーナーも兼務。広岡達朗氏やボビー・バレンタイン氏といった著名な人物を招聘するなど、積極的なチーム強化策を推進し、チームの人気向上に大きく貢献したことで知られています。2010年にチームがパ・リーグクライマックスシリーズで優勝した際には、選手たちによって胴上げされる経験をしました。

重光昭夫は、国籍に関しても特異な経緯を持っています。1955年に日本と韓国の両方の戸籍に登録されたため、41歳まで日本国籍を保持し、韓国の兵役義務を免除されていました。当時の韓国国籍法では外国籍取得による韓国籍の自動喪失規定がありましたが、1996年に一度韓国籍を喪失した後、短期間で回復。事実上の二重国籍状態を経て、同年に日本国籍を正式に放棄し、韓国籍を選択しました。

経営を巡っては、法的な問題にも直面しました。2017年末、横領などの罪で韓国の裁判所から懲役1年8ヶ月、執行猶予2年の有罪判決を受けました。さらに、2018年2月には、朴槿恵政権を巡る贈収賄容疑で懲役2年6ヶ月の実刑判決を言い渡され、即日収監されました。この実刑判決により、以前の執行猶予も取り消しとなりました。しかし、2018年10月には控訴審で懲役2年6ヶ月に執行猶予4年の判決となり、即日釈放され、経営に復帰しました。この判決は2019年10月に確定しています。

法廷闘争を乗り越え、2019年には日本ロッテホールディングスの代表権を再び取得しました。そして2020年3月にはロッテホールディングスの会長に選任され、同年4月には千葉ロッテマリーンズの代表取締役会長オーナーにも就任。これにより、長年続いた兄・宏之氏との経営権を巡る対立に終止符を打ち、日韓両国のロッテグループにおける名実ともにトップとしての地位を確立しました。2020年1月に死去した創業者の父・武雄氏が残した遺言状でも、次男である昭夫氏を後継者に指名し、長男やその他の家族の経営への関与を排除する意向が示されていたことが明らかになり、グループ内の体制が固められました。

私生活では、大成建設の会長を務めた人物の娘と結婚し、1男2女をもうけています。長男は現在ロッテホールディングスの取締役を務めています。兄と比較して韓国語が堪能であり、経営権を巡る騒動の際の謝罪会見でも韓国語で対応しました。また、日本の政界とも繋がりが深く、父の代からの縁で岸家や安倍家と親交があります。長男の結婚式には当時の内閣総理大臣であった安倍晋三氏が出席。2022年に安倍氏が死去した際には、韓国ロッテグループの経営幹部らが弔問に訪れました。

重光昭夫は、複雑な歴史を持つロッテグループにおいて、国際的な経験と日韓両国での実績を背景に、グループ全体の経営を担う重要な人物です。

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