野口彰宏

野口 彰宏

野口 彰宏（のぐち あきひろ、1967年10月3日生まれ）は、日本、アメリカ合衆国、ニュージーランドを中心に、国境を越えて活動するアクション演出家です。映画やテレビドラマといった映像作品において、アクション監督、アクションコーディネーター、ファイトコレオグラファー、ワイヤーマスター、スタントパフォーマー、アクショントレーナーなど、アクション撮影全般にわたる様々な役割を担っています。アルファスタントの創設メンバーであり、2024年まで所属していました。別名として、アキヒロ "ユージ" ノグチ（Akihiro Yuji Noguchi）や野口 勇次（のぐち ゆうじ）があり、海外ではユージという愛称で親しまれています。

来歴とキャリア

佐賀県出身。幼少期にブルース・リーのアクションに強い衝撃を受け、学生時代には友人たちと共に彼の動きを真似てアクショントレーニングに没頭しました。

1985年に倉田プロモーションに入門。1990年に退会後、同門の先輩である小池達朗氏と坂本浩一氏に招かれ渡米。ジェフ・プルート氏との協力を経て、小池氏、坂本氏と共にアクションチーム「アルファスタント」を設立しました。

スタントパフォーマーとして、日本ではヒーローショーやバラエティ番組『仮面ノリダー』シリーズにレギュラー出演するなど経験を積みました。渡米前は、約160cmという小柄な体格を活かして女性スタントを担当することが多かったものの、渡米後は性別や役柄にとらわれず幅広いパフォーマンスを披露しています。特に得意とするアクロバットを駆使したアクションは、小柄ながらもダイナミックで感情表現豊かであり、その技術と表現力はしばしば「天才」と称されるほどです。

アクション演出家として

1996年、『WMAC Masters』でアクション監督として演出家デビューを果たしました。この作品では自身も「サイクロン」役で出演し、小柄ながらも存在感のあるアクション演技を見せています。以降、映画監督アイザック・フロレンティーン氏と共に、アクション俳優スコット・アドキンス氏の初期キャリアを支えるアクション映画の演出を多数手掛けました。

特に、2007年の映画『黒帯 KURO-OBI』ではアクションコーディネーターを担当。アイザック・フロレンティーン氏は本作を観て「初めて本物の空手映画と感じた」と感動を語り、そのリアルな描写と洗練された格闘スタイルを絶賛しました。この評価は、野口氏が手掛けたファイトコレオグラフの質の高さを裏付けています。

野口氏のアクション演出スタイルは、「アクションはあくまでストーリーの一部」という信念に基づいています。作品の物語、登場人物の個性、シーンの背景を深く理解し、感情や状況に寄り添った説得力のあるアクションシーンを創り出すことを最も重視しています。自身にスタントパフォーマーとしての視点があるため、個々の動きの表現にもこだわり、共演者やスタントパフォーマーに対しても高く厳しい要求をすることで知られています。彼の持論は、同じアクションでも多様な見せ方ができる表現力と、それを支える確固たる基本動作の重要性です。子供が真似したくなるような分かりやすさとカッコ良さ、大人が感心し、魅了される奥深さ、そして観る者すべてが飽きずに楽しめるストーリーに沿ったアクション演出を常に追求しています。

国際的な活動と貢献

日本、ハリウッド、ニュージーランドを中心に、世界各地のアクション撮影現場でキャリアを築いてきた野口氏は、国際的に活躍する日本人アクション演出家のパイオニア的存在です。スティーブ・ワン氏、アイザック・フロレンティーン氏という実力と人柄を兼ね備えた両氏との初期の協力は、その後の活動の大きな基盤となりました。

リトアニアで撮影された『Special Forces』（邦題：人質奪還 アラブテロVSアメリカ特殊部隊）ではファイトコレオグラファー/アクション監督を務め、現地でオーディションを行ったスタントパフォーマーたちを自ら鍛え上げました。ブルガリアで活動するアクションチームALPHA STUNTは、アルファスタント（米国）に敬意を表し、野口氏と小池氏が現地で集めたメンバーによって設立されたチームです。

ショーン・コネリー氏の最後の実写映画となった『リーグ・オブ・レジェンド/時空を超えた戦い|リーグ・オブ・レジェンド_時空を超えた戦い』では、撮影クルー唯一の日本人としてチェコに渡り、アクション演出に加え、ショーン・コネリー氏やナシールッディーン・シャー氏のアクショントレーナーやファイトコレオグラファーを担当しました。

また、幼少期からの心の師であるブルース・リーの娘、シャノン・リー氏のアクショントレーニングを担当したことは、長年の夢を一つ実現した出来事だったと述べています。アイザック・フロレンティーン氏は彼を「異母兄弟のアクション・マエストロ」、スティーブ・ワン氏は「生けるレジェンド」と称賛し、アルファスタントの創設メンバーが90年代のハリウッドで東西のアクションスタイルを融合させ、その後の世界のアクション映画に革命をもたらしたと高く評価しています。

特筆すべきエピソード

ガイバーキック

スティーブ・ワン氏が製作した映画『ガイバーダークヒーロー2』（1994年）の撮影で、野口氏が披露したダイナミックな蹴り技は、後に「ガイバーキック」と呼ばれるようになりました。これはアクション俳優キム・ウォンジン氏の蹴り技に触発された野口氏が、視界や可動域が大きく制限されるガイバースーツを装着しながら、特撮映画の表現としてより効果的に演じたものです。アクロバティックで高度な身体能力を要するこのキックは、海外の格闘家やスタントパフォーマー、アクションファンの間で伝説的な技となり、現在ではスコット・アドキンス氏の代名詞ともなっています。スコット・アドキンス氏は『Special Forces』でこの技を演じた際、野口氏こそが『ガイバーダークヒーロー2』でガイバーキックを披露した本人であることを知り、以来、技のルーツとして野口氏の名を挙げています。

パワーレンジャーシリーズ

ハリウッド時代の『マイティ・モーフィン・パワーレンジャー』へのスタント参加を皮切りに、ニュージーランドで製作されたディズニー時代以降、『パワーレンジャー』シリーズのアクション撮影に長年深く関わりました。2010年以降はサバン～ハズブロ体制のもと、セカンドユニット監督として日本人スタントチームを率い、2011年の『パワーレンジャー・サムライ』から2023年の最新作『パワーレンジャー・コズミックフューリー』まで、約1年にわたる日本とニュージーランドの往復生活を送りながら、長期にわたりシリーズを支え続けました。この30年近くにわたる貢献は、シリーズが異例の長期間にわたって製作され、社会現象となるほどの人気を維持する上で大きな要素となりました。また、この現場から多くのアクション部門をはじめとする優れた人材が輩出され、現在、世界のエンターテイメント撮影現場を牽引しています。

国籍、人種、文化、予算、仕事の進め方など、実に多様な環境でアクションを創り上げる仕事の難しさと奥深さを痛感しつつも、その醍醐味は尽きないと言います。倉田保昭氏の一貫した教えが揺るぎない基盤となり、またアルファスタント代表としてチームを率いる小池達郎氏、そしてアクション・特撮映画界の第一人者となった坂本浩一氏が、常に自身のキャリアと演出家としてのあり方を考える上で指標となり、支えとなってきたと語っています。野口氏のキャリアは、派手さよりも確実な実績と、多くの人々に影響を与え続けるパイオニア精神に彩られています。

彼の主な参加作品は、前述のシリーズの他、映画『黒帯 KURO-OBI』『リーグ・オブ・レジェンド』『破裏拳ポリマー』、テレビドラマ『仮面ライダー』シリーズ、ゲーム『龍が如く』シリーズなど、多岐にわたります。

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