野平健一

野平健一は、1923年に東京府で生まれ、2010年に87歳で亡くなった編集者です。新潮社で文芸編集者として活躍し、特に太宰治の作品を数多く担当したことで知られています。

生い立ちと学歴

野平は、中野区立桃園第二小学校、東京府立第六中学校（現在の東京都立新宿高等学校）を経て、第三高等学校文科丙類に進学しました。1942年9月には京都帝国大学文学部に入学しましたが、1943年12月に学徒出陣のため大学を離れ、横須賀市の武山海兵団に三等水兵として入隊しました。その後、海軍の飛行科予備学生となり、静岡県の大井海軍航空隊に所属し、終戦を迎えました。1945年10月に中尉として復員し、京都大学に復学、1946年9月に卒業しました。

新潮社での活躍

1946年8月26日、野平は新潮社に入社しました。700名の応募者の中から選ばれた2名の採用者のうちの一人でした。入社後、『新潮』編集部に配属され、文芸編集者として太宰治を担当することになりました。太宰治の短篇『親友交歓』の原稿を読んだことがきっかけで、太宰の熱烈な愛読者となり、その才能に深く惹きつけられました。野平は太宰の晩年の連載『斜陽』などを担当し、その明晰な頭脳から「カミソリノヒラ」と渾名されました。また、新宿歌舞伎町の小料理屋「ちとせ」のマダムだった房子と結婚しました。房子は、向島の料亭の娘で、一時作家の谷丹三の妻でもありました。太宰の小説「女類」はこの恋愛をモデルにしています。太宰の死後、田中英光が三鷹市にある太宰の墓前で自殺した際、病院へ運んだのも野平でした。

1955年12月には、『週刊新潮』の創刊に携わり、1956年2月からは同誌の編集部に異動し、特集部門を担当しました。1964年4月からは『週刊新潮』の編集長となり、齋藤十一の補佐役として激務をこなしました。1966年には、『週刊新潮』連載の梶山季之の小説『女の警察』が刑法175条（猥褻物頒布）に触れるとして、著者とともに略式起訴され、罰金5万円の有罪判決を受けました。また、『週刊新潮』は民事訴訟もたびたび起こされています。

その後

1973年、野平は新潮社の取締役となり、1981年には常務取締役に昇進しました。1992年3月に相談役となり、第一線を退きました。2010年7月5日、老衰のため87歳で亡くなりました。

著書

野平は、以下の著書を刊行しています。

『矢来町半世紀 太宰さん三島さんのこと、その他』（新潮社、1992年）
『西暦1999 続矢来町半世紀』（私家版、1999年）
* 『太宰治氏の大逆説 続々矢来町半世紀』（私家版、2002年）

野平健一は、その編集者としての卓越した能力と、太宰治をはじめとする多くの作家たちとの深い関わりを通して、日本の出版文化に大きな足跡を残しました。

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