金原明善

金原明善

金原明善（きんぱら めいぜん）は、天保3年（1832年）に遠江国に生まれ、大正12年（1923年）に没した明治時代の実業家です。静岡県浜名郡和田村の村長も務めました。天竜川の治水事業、北海道の開拓、植林事業など、近代日本の発展に大きく貢献しました。

生い立ちと初期の活動

1832年、金原明善は遠江国長上郡安間村（現在の静岡県浜松市中央区安間町）で、酒造業と質屋を営む裕福な家庭に生まれました。幼名は弥一郎。父の範忠は優れた経営手腕を持ち、母の志賀は家族を支える献身的な女性でした。明善は、幼少期から両親の姿を通して、勤勉と誠実さの大切さを学びました。1857年、24歳で結婚し、家業を継ぎました。同じ頃、主家である旗本松平家の財政再建のため、父の名代として江戸に赴き、その責務を果たしました。この際、他の代官たちが遊興にふける中、明善は学問に励み、その後の活動の基礎を築きました。

天竜川の治水事業

1868年、天竜川の大洪水によって故郷が甚大な被害を受けたことをきっかけに、明善は治水事業に尽力することを決意しました。明治維新後、新政府に治水策を訴えましたが、当初は相手にされませんでした。しかし、明治天皇の東幸に際して東海道の補修工事が急遽始まり、その優れた運営手腕が認められ、明善は苗字帯刀を許される名誉を得ました。その後、静岡藩から天竜川の治水責任者に任命され、1874年には天竜川通堤防会社を設立しました。大久保利通内務卿に直訴し、近代的な治水事業が開始され、堤防の強化や河道の改修などが行われました。また、工学技術者の必要性を感じ、工部大学校卒業生の小林八郎を迎え、ヨーロッパ留学の機会を与えるなど、人材育成にも力を注ぎました。1883年、天竜川通堤防会社は解散しましたが、明善の計画は国や県に引き継がれ、天竜川の治水事業の基礎となりました。

天竜川流域の植林事業

治水事業が軌道に乗ると、明善は天竜川流域の山間部における植林事業に着手しました。荒廃した山々が洪水の原因となっていると考え、1885年から大規模な植林を開始しました。自費でスギやヒノキの苗木を植え、その数は292万本に達しました。この植林事業は、後の天竜杉の発展につながり、地域林業の振興に大きく貢献しました。

疏水事業

1899年、明善は天竜川の水を活用した疏水事業を計画しました。天竜川の水を三方原台地や浜名湖方面へ分水する計画でしたが、県の技術不足により実現には至りませんでした。しかし、この計画は近代における天竜川利水の第一歩となり、その後の水利事業に大きな影響を与えました。

出所者の保護事業

1880年、明善は川村矯一郎から監獄の窮状を聞き、出所者の保護を目的とした勧善会を組織しました。その後、勧善会は静岡県出獄人保護会社に改組され、日本で初めて出所者の保護事業に乗り出しました。この事業は、保護司制度の原点となり、社会福祉の発展に貢献しました。

北海道開拓

明善は、北海道開拓にも関わりました。会津藩士族の丹羽五郎の熱意に打たれ、資金援助を行い、北海道瀬棚郡目名地区（現在の北海道今金町）に農場を開拓しました。明善は直接開拓には携わらなかったものの、農場を訪問し、開拓者を激励しました。

事業経営と余業

明善は、「金は値打ちのない場所で儲けて、値打ちのある場所で使う」という信念を持って事業に取り組みました。また、岐阜県の濃尾地震の被災地復興や、広島県の植林思想普及にも協力しました。

史跡と顕彰

静岡県浜松市東区安間町には、明善の功績を顕彰する金原明善翁生家・記念館があります。また、岐阜県本巣市根尾松田初鹿谷には、明善を顕彰する石碑が建立されています。

栄典・授章・授賞

明善は、その功績により、従五位、正五位、金製黄綬褒章、勲六等瑞宝章、勲四等瑞宝章、紺綬褒章など、数々の栄典と勲章を受章しました。


金原明善の生涯は、困難に立ち向かい、地域社会の発展に貢献した偉大な人物の模範として、今も語り継がれています。

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