金玉 (秘書)

金玉（キム・オク、김옥、1964年8月28日生）は、朝鮮民主主義人民共和国の第2代最高指導者である金正日総書記の個人秘書を務め、晩年にはその伴侶であったと広く認識されている女性です。元国防委員会課長でもあり、金成玉や柳玉姫といった別名でも知られています。

彼女の生い立ちは、芸術分野との関連が深いものです。喜び組の養成機関として知られる平壌の金星高等中学校を卒業後、平壌音楽舞踊大学でピアノを専攻しました。卒業後は旺載山軽音楽団でピアニストとして活動しており、早くから芸術的な才能を発揮していました。

金正日総書書の個人秘書としての活動は1980年代から始まったとされています。当初、米韓の情報機関からはさほど重要な人物とは見なされていませんでしたが、2000年代に入るとその存在感を着実に高めていきました。2001年頃には国防委員会課長に就任したとも報じられています。金正日総書記の第3夫人であった高英姫の死去後、金玉が公の場で金正日と行動を共にすることが増え、特に2006年1月には当時の中国共産党中央委員会総書記であった胡錦濤との会談に同席したことなどが確認されています。

2006年7月には、金正日総書記と同棲していることが報道され、事実上の伴侶としての地位が明らかになってきました。2008年には金正日との間に娘を出産したと報じられています。また、2008年9月頃から金正日の健康不安説が囁かれるようになると、彼女は金正日の詳細な病状を正確に把握している人物として注目されました。さらに、高英姫が自身の死を前にして、実子である金正哲と金正恩を金玉に託したとも伝えられており、これは金玉が後継者選びにおいて非常に重要な影響力を持っていたことを示唆するものと見なされています。

2009年頃には、金正日と正式に結婚したと見られており、事実上の夫人としての地位を確立したと考えられています。2011年には、中国の高官筋から韓国の朴宣映議員に伝えられた情報により、金正日との間に7歳になる息子が存在することも判明しました。金正日総書記の夫人の存在が公式に発表されたことは一度もありませんが、複数の女性との間に3男3女をもうけたというのが定説となっています。

2011年12月17日に金正日総書記が死去した後、その葬儀委員名簿に金玉の名前は記載されていませんでした。しかし、2012年2月14日に発表された金正日勲章の受勲者132名の中に彼女の名前が含まれていました。これは、北朝鮮のメディアで金玉の実名が初めて報道されたケースとして記録されています。

その後、2016年7月には、アメリカ政府系のラジオ・フリー・アジアが、金玉とその家族が粛清され、政治犯として強制収容所に送られた可能性を報じました。この報道によると、粛清の決定的な要因は、金玉の弟である金均が姉の地位を笠に着て行っていた傍若無人な振る舞いや傲慢な態度であったとされており、これを国家安全保衛部が金正恩に報告したことが粛清につながったと伝えられています。また、金正恩体制下で、その生母である高英姫の偶像化を進める必要があったことや、妻の李雪主や妹の金与正の政治的な活動が活発化する中で、金玉の存在がこれらの動きに悪影響を与える可能性も考慮されたとも指摘されています。なお、金均は2011年に金日成総合大学の第1副総長に任命されていましたが、金正恩執権後の2013年10月に突然解任されています。また、彼女の父である金孝も、朝鮮労働党財政経理部副部長を務めていましたが、2014年3月の最高人民会議代議員選挙で再選されなかったことが確認されており、家族全体に何らかの変動があったことを示唆しています。

金玉は、金正日体制下で長くその傍らに仕え、特に晩年には最も近しい存在として権力の中枢に深く関与した人物であり、その動向は常に外部から注目されてきました。彼女の人生は、北朝鮮という特殊な国家における権力構造の一端を示すものとも言えるでしょう。

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