金石 (金沢市)

石川県金沢市の北西部に位置する金石（かないわ）は、犀川が日本海に注ぎ込む河口の右岸一帯に広がる港町です。古くは宮腰（みやのこし）という名で呼ばれていました。

この地名は、江戸時代後期の慶応二年（1866年）、隣接していた宮腰町と大野村が合併する際に名付けられたものです。当時、両地区の間では港の利用権などを巡る対立が続いていましたが、加賀藩の仲介によって和解・合併が実現しました。この固い和解の証として、「固いこと金石（きんせき）の交わり」ということわざにちなみ、「金石（かないわ）」という新しい町名が採用されたと伝えられています。合併当初、旧宮腰地区は金石町本町に、旧大野地区は石川郡上金石町となりましたが、その後、世間では旧宮腰地区のみが金石と呼ばれるようになり、名称を巡る混乱から旧大野地区は後に大野町へと改称しました。これにより、金石の地名は旧宮腰地域を示すものとして定着しました。

金石は、中世以来、日本海を行き来する北前船の重要な寄港地として繁栄しました。特に江戸時代には、加賀藩の外港としての地位を与えられ、年貢米や材木、塩などの物資が集散する一大物流拠点として栄華を極めました。この地を拠点に活躍した商人の中には、伝説的な豪商として知られる銭屋五兵衛がいます。石川県銭屋五兵衛記念館や銭五の館は、彼の功績を今に伝えています。しかし、隣接する大野港との間では、藩政期を通じて港の利用に関する利権争いが絶えませんでした。

昭和十八年（1943年）、金石町は周辺の大野村や二塚村とともに金沢市に編入合併されました。市への編入後、旧金石町の各町名には「金石」が冠される形となり、金沢市の町名として受け継がれました。昭和四十三年（1968年）には住居表示制度が導入され、約30あった旧町名が金石東、金石北、金石西の5つの町名に再編されました。しかし、近年では歴史的な町並みを保全する動きの中で、かつての町名を復活させようという運動が進められています。平成三十年（2018年）には、金石西二丁目、三丁目、四丁目の一部が金石今町、金石新町、金石味噌屋町など複数の旧町名として復活しました。この動きは今後も続けられる予定です。

現在の金石地区は、近代的な金沢港の一部を擁する一方で、古い港町の情緒を残す地域でもあります。街中には、かつての商家の面影を残す格子戸のある家屋や細い路地が見られ、金沢市はこれらの歴史的な町並みを「こまちなみ保存区域」に指定して保護に努めています。地域には、格式高い大野湊神社や、前述の銭屋五兵衛に関する施設など、歴史的な名所旧跡が点在しています。また、金石市民センター、金石消防署、金沢西警察署などの公共施設や、金石幼稚園、金石町小学校、金石中学校といった教育機関も充実しています。交通面では、かつて金沢市街とを結んでいた北陸鉄道金石線は昭和四十六年（1971年）に廃止されましたが、その跡に並行する石川県道17号金沢港線が整備され、現在では金沢と港湾部を結ぶ主要な幹線道路となっています。地域交通の要衝として、金石バスターミナルからは市内各地へのバス路線が運行されています。

金石にゆかりのある人物としては、豪商の銭屋五兵衛のほか、初代中村歌右衛門（歌舞伎役者）、安宅弥吉（実業家）などが挙げられます。

現在も金石本町や金石海原など、住居表示制度が導入されていない地域と、金石東、金石北、金石西のように住居表示が実施されている地域が存在します。また、近年復活した金石海禅寺町、金石今町、金石新町、金石味噌屋町、金石下本町、金石下寺町、金石通町、金石上浜町、金石松前町、金石浜町、金石上越前町、金石御船町、金石相生町といった旧町名も、住居表示実施区域内に復活しています。

地域には、株式会社日成ビルド工業や三善製紙株式会社などの事業所もあります。

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