金谷秀夫

金谷 秀夫

金谷 秀夫（かなや ひでお、1945年2月3日 - 2013年12月19日）は、日本の元オートバイレーサー、そして引退後はレーシングチームの会長や監督を務めた人物です。兵庫県神戸市に生まれた金谷氏は、1970年代前半の日本国内ロードレース界において、圧倒的な速さで比肩する者のいない存在でした。ヤマハのワークスライダーとして参戦したロードレース世界選手権（世界GP）では、デビュー戦である西ドイツGP250ccクラスでの鮮烈な優勝を飾り、さらに500ccクラスと350ccクラスにおいて、日本人として初めて勝利を記録する快挙を成し遂げました。その功績から「世界の金谷」という異名で知られています。

来歴

金谷氏のキャリアは、伝説的なレーサー片山義美が主宰する「神戸木の実レーシング」に加入したことから始まります。六甲山での厳しいトレーニングを通じてそのライディングテクニックを磨きました。チーム木の実がカワサキを主な使用メーカーとしていたことから、金谷氏はカワサキのワークスライダーとなります。1967年には日本グランプリで初めて世界GPの舞台に立ち、125ccクラスで3位に入賞する健闘を見せました。1969年には全日本セニア250ccクラスのチャンピオンに輝きますが、カワサキがレース活動を縮小したため、チームを離れることとなります。

1970年、金谷氏は選抜テストを経てヤマハワークスへの加入を果たしました。ヤマハ移籍後もその速さは健在で、1971年には全日本セニア251cc以上クラスおよび90ccクラスでチャンピオンを獲得しています。1972年、ヤマハワークスの一員として世界GP250ccクラスへ参戦。開幕戦である西ドイツGP（ニュルブルクリンク）では、世界GP初出場にして初優勝という歴史的な快挙を達成しましたが、この年はシリーズ前半の4戦のみの参戦にとどまり、日本に帰国しました。

翌1973年、金谷氏はヤマハワークスから再び世界GPの500ccおよび250ccクラスにフル参戦します。500ccクラスの開幕戦で2位を獲得するなど好調なスタートを切りました。しかし、第4戦イタリアGP（モンツァ）の250ccクラスで発生した多重クラッシュに巻き込まれ、同僚であり親友でもあったヤーノ・サーリネンが事故死するという悲劇に直面します。金谷自身もこの事故で負傷しました。この出来事を受け、ヤマハは弔意を示すためシーズン後半のグランプリ参戦を取りやめ、金谷も日本へ帰ることとなりました。

1974年シーズン開幕前のデイトナ200マイルレースでは、決勝中に転倒し重傷を負うアクシデントに見舞われました。数ヶ月にわたる入院とリハビリを経て、秋に開催されたMFJ日本GPでレースへの復帰を果たし、750ccクラスで2位に入賞するなど、見事な復活劇を見せました。

1975年、金谷氏はヤマハのエースライダーであるジャコモ・アゴスチーニをサポートする役割で、再び世界GPの500ccおよび350ccクラスへ挑戦しました。開幕戦のフランスGPでは500ccクラスで2位を獲得。続く第2戦オーストリアGPでは、500ccと350ccの二つのクラスを同日に制覇するという偉業を成し遂げました。しかし、シリーズ第5戦を終えた時点で、金谷氏は世界GPへの参戦を打ち切り日本へと帰国します。この時点で、金谷はアゴスチーニと同点のランキング首位につけていました。シリーズ前半戦のみの出場ではありましたが、金谷氏は1975年の500ccクラス年間ランキングで3位という好成績を残しました。同年秋のMFJ日本GPフォーミュラリブレクラスでは優勝を飾っています。

これ以降、金谷氏が世界GPへ本格的に参戦することはなくなり、主な活動の場を日本国内に移し、ヤマハワークスマシンの開発ライダーとしての役割を担うことになります。1982年のTBCビッグロードレースをもって、現役レーサーとしてのキャリアに終止符を打ちました。

引退後は、ヤマハ系の強豪チームであるチーム・カナヤの会長として、後進の育成に尽力しました。1983年の全日本ロードレース選手権250ccクラスチャンピオン斉藤光雄や、1984年TT-F3クラスチャンピオン江崎正といった才能あるライダーたちを育て上げています。また、ロードレース中継の解説者としてテレビ出演する機会が増え、ライディングテクニックに関する書籍の執筆も手がけました。さらに、1982年に公開された映画『汚れた英雄』ではレースシーンの監修を務めるなど、様々な方面からオートバイ文化の普及と向上に貢献しました。

エピソード

カワサキに所属していた1966年、富士スピードウェイでの全日本選手権ロードレース大会ジュニア部門250ccクラスに出場した際、アメリカの一流ライダーであるギャリー・ニクソンと激しい優勝争いを展開し、惜しくも2位となりました。金谷はまだジュニアライセンスのライダーでしたが、その非凡な速さは既にライバルチームにも知れ渡っていました。ヤマハは金谷の優勝を阻止するため、特例としてニクソンをジュニア登録させるという異例の手段に出たとされています。この経験は、世界のトップライダーとも互角に戦えるという金谷の評価を確固たるものにしました。
1973年に世界GPを共に戦った同僚ヤーノ・サーリネンに対しては、深い友情と尊敬の念を抱いていたと伝えられています。そのサーリネンの事故死後、ライバルチームのエースだったジャコモ・アゴスチーニがヤマハに加入し、自身が翌年からそのサポート役に回ることになった状況に、金谷が複雑な思いを抱いていた可能性が指摘されています。1974年のデイトナ200での転倒・重傷は、先行するアゴスチーニを追う中で起きたことから、この複雑な心情が影響したのではないかという見方もあります。
1975年の世界GPにおいて、ランキング首位に立ちながらもシリーズ途中で日本に帰国したことは、関係者の間で論議を呼びました。ヨーロッパのモーター・ジャーナリストから帰国理由を問われた際、金谷氏は「勝つのはアゴ（アゴスチーニ）の仕事、俺には日本での仕事があるんや！」という有名な言葉を残しました。この発言や状況から、「ヤマハがアゴスチーニをチャンピオンにするために金谷を帰国させたのではないか」という憶測も生まれましたが、金谷自身は後のインタビューなどで、エースサポートとマシン開発という役割分担は事前に決められていたこと、自身の性格にはセカンドライダーの立場が合っていたことなどを語り、そうした見方を否定しています。

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