釜口水門

釜口水門：天竜川の起点と諏訪湖の治水史

長野県岡谷市に位置する釜口水門は、天竜川の起点であり、諏訪湖から天竜川へと水が流れ出る地点に建設された重要な水門です。古くから、諏訪湖は31もの河川が流れ込む一方、流出河川は天竜川のみという地理的特性を持っていました。そのため、大雨の際には容易に氾濫が発生し、周辺地域に大きな被害をもたらしていました。

治水への取り組み：江戸時代から続く努力

治水対策は、天正年間から始まったとされています。江戸時代には、諏訪湖の水位を下げるため、湖の出口である釜口周辺の改修工事が盛んに行われました。中でも、天保年間に行われた伊藤五六郎による浜中島撤去工事は有名です。明治元年に弁天島が撤去されたことも、排水を促進するための重要な出来事でした。葛飾北斎の代表作「富嶽三十六景　信州諏訪湖」に描かれている祠は、この弁天島だと考えられています。

近代的な水門の建設と改修

人為的に水位を調整できる水門の必要性が高まり、昭和7年11月に釜口水門の建設が始まりました。昭和11年には初代水門が完成し、総工事費用は32万円でした。しかし、その後も諏訪湖周辺では度々氾濫が発生し、昭和42年の「諏訪湖治水計画」では、最大放流量を200立方メートルから600立方メートルに増やすことが決定されました。初代水門は老朽化と断面不足により改修が不可能と判断され、昭和48年に2代目水門の建設計画が始動、昭和54年に着工、昭和63年に完成しました。2代目水門は初代水門から諏訪湖側へ約80メートル上流に建設され、フラップ式二段ゲート（上段：魚腹型フラップゲート、下段：シェル構造ローラーゲート）を採用しています。初代水門は解体されましたが、その本体はブロック状に切り出され、2代目水門の護岸ブロックとして再利用されています。

水門の構造と周辺施設

釜口水門は、諏訪湖と天竜川の水位差が約3.5メートルあるため、船舶の通行を可能にする舟通し水門（パナマ運河方式）と、魚類の移動を確保するための魚道が設けられています。魚道は、毎秒2～4立方メートルの水量と毎秒2メートル以下の流速になるように設計されています。

水門の周辺には、「釜口水門水の資料室」があり、諏訪湖や釜口水門の歴史、過去の災害に関する資料が展示されています。諏訪湖側には遊歩道が整備され、南側には「琵琶湖周航の歌」の作詞者である小口太郎の銅像と、旧水門建設時に使用されたディーゼル機関車「プリマス号」が展示されています。また、釜口水門管理事務所では「水門カード」が配布されています。さらに、すぐ近くの湖畔には岡谷湖畔公園があり、野外彫刻や「寒の土用丑の日発祥の地」記念碑などがあります。

釜口水門は、天竜川の起点として、そして諏訪湖の治水を担う重要な施設として、その歴史と役割を今に伝えています。周辺施設と合わせて、歴史と自然を学ぶ貴重な場所となっています。

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