鈴木三太夫

鈴木三太夫

鈴木三太夫（すずき さんだゆう）は、江戸時代前期に相模国海老名郷大谷村（現在の神奈川県海老名市大谷）で名主（庄屋）を務めた人物です。生年は不明ですが、貞享元年（1684年）に亡くなりました。本名は三左衛門（さんざえもん）といい、「三太夫」という名前は死後に贈られたものとされています。

過酷な年貢と直訴の決意

大谷村は当初幕府の直轄領でしたが、延宝2年（1674年）に旗本の町野幸宣が領主となりました。町野氏の支配下に入ると、農民への年貢負担は著しく増加しました。天和3年（1683年）に町野幸重が家督を継ぐと、年貢の取り立てはさらに厳しさを増し、凶作も重なって村には死者が出るほどの状況でした。

名主であった三左衛門は、この状況を打開するため、江戸幕府への直訴を決意します。しかし、事前に密告され、捕らえられてしまいました。

悲劇的な最期と顕彰

貞享元年（1684年）4月27日、三左衛門は今里の代官所（現在の神奈川県立中央農業高等学校の場所）で斬首に処されました。さらに、二人の息子も同罪として処刑され、事前に離縁していた妻も自害するという悲劇的な結末を迎えました。父子の遺体は、妙常寺の住職によって引き取られ、同寺に葬られました。

元禄14年（1701年）、町野幸重は悪政が露見したため改易処分を受けました。これは三左衛門の死後間もなくのことだと地元では伝えられています。村人たちは、自分たちのために犠牲となった三左衛門を「三太夫」と呼び、その功績を語り継ぎました。郷土史家の中山毎吉は、「三太夫」という名前は、徳の高い人物に贈られる諡であると推測しています。

後世に語り継がれる義民の精神

昭和13年（1938年）には、三左衛門の屋敷跡に「鈴木三太夫翁之碑」が建てられました。さらに、昭和27年（1952年）には「鈴木三太夫霊堂」が建設され、昭和48年（1973年）には大谷自治会によって「義民の碑」が霊堂内に建立されました。また、昭和52年（1977年）には海老名郷土かるたにもその事績が詠まれています。

現在でも、命日である4月27日には、地元の人々によって供養が行われており、三太夫の義民としての精神は、今もなお受け継がれています。

三太夫は、困難な状況下でも、村人のために立ち上がった勇気ある人物として、その名が語り継がれているのです。

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