鈴木三重子

鈴木三重子

鈴木三重子（すずき みえこ、1931年11月24日 - 1987年3月12日）は、日本の昭和歌謡史に一時代を築いた女性歌手です。福島県に生まれた彼女は、本名を菊地ミヘ子といいました。父は著名な民謡歌手である初代鈴木正夫であり、彼女は三女にあたります。その音楽的なルーツは父から受け継いだと言えるでしょう。

彼女の歌手としてのキャリアは、1954年にレコード会社テイチクから「相馬盆唄」で幕を開けました。これは彼女のデビュー曲であり、郷里福島にゆかりのある民謡を歌い始めたことは、父の血を受け継ぐものとして自然な流れであったかもしれません。

決定的な転機が訪れたのは、1956年のことです。この年に発表された楽曲「愛ちゃんはお嫁に」が社会現象となるほどの大ヒットを記録しました。この曲は瞬く間に日本中の人々の心をとらえ、「愛ちゃん」という言葉が流行語のようになり、一種のブームを巻き起こしました。発売当初の売上は18万枚でしたが、1968年の時点では累計70万枚という驚異的なセールスを記録しました。

「愛ちゃんはお嫁に」は、特に結婚式のBGMとして非常に広く親しまれ、多くの人々の門出を彩る定番ソングとなりました。この曲のヒットにより、「愛ちゃん」は鈴木三重子自身の愛称としても定着し、彼女は日本中の人々に「愛ちゃん」として愛される存在となったのです。

彼女の人気は音楽活動だけに留まりませんでした。1958年には、当時の政界や実業界の著名人であった藤山愛一郎氏、そして美容界のパイオニアである山野愛子氏らと共に「愛ちゃんの会」を結成するなど、多方面で活躍を見せました。その後は全国各地を巡る巡業を中心に、精力的に歌声を届ける活動を続けました。一時、レコード会社をポリドールレコードに移籍し、新たなシングルもいくつか発表しています。

鈴木三重子氏は、その歌唱力と親しみやすいキャラクターで、多くの代表曲を生み出しました。デビュー曲の「相馬盆唄」をはじめ、「浮草小唄」「ほろ酔ユンタ」「むすめ巡礼」「愛ちゃんの子守唄」といった楽曲があります。そして、「愛ちゃんはお嫁に」と並んで語られることの多い楽曲に「南国土佐を後にして」があります。この曲は1955年に彼女がレコードに吹き込んでいますが、後にペギー葉山氏がカバーし大ヒットさせたことで、より一層広く知られることとなりました。その他にも、「兄さは東京で嫁もろた」「潮来恋唄」「小島の灯台娘」「背戸の踊り子」「籠の鳥エレジー」など、数多くの歌が人々に愛されました。

歌手活動の傍ら、女優としても活動しました。1957年には映画『南蛮寺の佝楼男』に座員・三重子役で、1967年には映画『喜劇 団体列車』に三重子役で出演し、演技の世界でもその才能を発揮しました。

1980年、鈴木三重子氏は健康上の理由、具体的には静脈瘤の手術を機に、惜しまれつつ歌手活動から身を引きました。そして、それから数年後の1987年3月12日、肝硬変のため都内の病院で55歳という若さでその生涯を閉じました。葬儀・告別式は、死去から3日後の同年3月15日に、東京都渋谷区の代々木八幡葬祭場で執り行われました。

鈴木家の音楽の系譜は途絶えることなく、彼女の実弟が二代目鈴木正夫を襲名し、民謡歌手として活躍しました（1937-2019）。

「愛ちゃん」として国民に親しまれた鈴木三重子氏は、短い生涯ながらも、特に「愛ちゃんはお嫁に」のメガヒットを通じて日本の大衆音楽史に確固たる足跡を残しました。彼女の歌声は、今なお多くの人々の心に生き続けています。

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