鈴木勝丸

鈴木勝丸：街頭紙芝居の語り手、その生涯

鈴木勝丸（すずき かつまる、1904年2月25日 - 1986年8月7日）は、昭和の街頭紙芝居の世界で活躍した説明者、原作者、そして経営者です。彼の創り出した「勝丸調」と呼ばれる独特な語り口は、多くの説明者に影響を与えました。

紙芝居の世界へ

東京・神田に生まれた鈴木勝丸は、本名を鈴木嘉兵衛といい、大工を経て、1927年に「立絵」紙芝居の「島廼家」二代目である戸川政之助に師事しました。その後、三代目として「島廼家勝丸」を名乗り、「平絵」紙芝居の世界で活躍を始めます。鈴木勝丸、島廼家勝丸、両方の名で紙芝居やおとぎ話のSPレコードを多数吹き込み、「勝丸調」という語り口を確立しました。また、寄席芸人との交流もあり、新作落語を演じたこともありました。

1937年には、紙芝居関係者が集まった「大日本画劇株式会社」に説明者として参加。翌年には、同社と「大日本画劇協会」主催の紙芝居コンクールで、山川惣治作の「勇犬軍人号」を説明し優勝しました。

戦争と紙芝居の衰退

しかし、戦況が悪化すると紙芝居は衰退し、勝丸も徴用されて休業を余儀なくされました。戦後はカツギ屋を経て、帝都座名人会で新講談を演じます。1945年11月には、相馬泰三、加太こうじらと紙芝居復興を目指して「ともだち会」を結成し、翌年1月には加太作の戦後初の新作紙芝居「黄金バット・ナゾー編」を説明しました。

芸人肌の勝丸は説明者としての生活に困窮し、北海道の炭鉱へ行くも、1948年には妻の実家がある神戸に移ります。神戸で紙芝居会社の支社を運営していましたが、後に自身の会社「阪神画劇社」を設立。しかし経営は難航し、1950年10月には東京・高尾山で自殺未遂を起こしてしまいます。

水木しげるとの出会い

勝丸を心配した加太こうじが神戸を訪れ、また、1950年から1951年にかけて、神戸で貸アパート経営をしていた後の漫画家、水木しげるを発掘しました。加太の指導も加え、水木は紙芝居作者として成長し、「阪神画劇社」の主要作者となります。勝丸が最もよく知られるのは、水木しげるの紙芝居の説明者としての側面です。水木の自伝的作品にも実名で登場し、水木の代表作である『墓場鬼太郎』も、勝丸が戦前の伊藤正美の紙芝居作品『ハカバキタロー』の粗筋を示唆したことがきっかけでした。

加太こうじは著書『紙芝居昭和史』で、「水木の今日あるのは鈴木の異常ともいえる紙芝居作りに対する熱情が大きな原因となっている」と述べています。

紙芝居の衰退と晩年

テレビの普及や交通事情の変化により、紙芝居は急速に衰退しました。1957年、水木は紙芝居描きを廃業し、貸本漫画家として上京。勝丸も困窮して神戸を離れ、上京して紙芝居を廃業。その後、出版関係の画家集団の事務職となりました。

1970年以降は引退し、「懐かしの紙芝居語りの名人」としてテレビ出演やレコード吹込を行いました。1986年、埼玉県庄和町（現春日部市）の長男宅で息を引き取りました。遺品の一部は庄和町に寄付されましたが、現在は所在不明です。

逸話

勝丸は紙芝居に対して非常にストイックで、実演中に飴を買おうとした子供を追い払うほどでした。加太こうじは「鈴木勝丸は芸人だったが商売人ではなかった」と評しています。

水木しげるの本名である武良茂が「水木通り」に住んでいたことから、勝丸は彼を「水木さん」と呼び続けました。何度否定しても改めなかったので、水木はペンネームを「水木しげる」にしたという逸話があります。つまり、勝丸は「水木しげる」の命名者とも言えます。

NHKの2010年のテレビドラマ『ゲゲゲの女房』に登場した紙芝居語り「杉浦音松」は、勝丸がモデルとなっています。

参考文献

加太こうじ『紙芝居昭和史』（岩波現代文庫）
加太こうじ他『下町演芸なきわらい』（駸々堂）
* 石山幸弘『紙芝居文化史 資料で読み解く紙芝居の歴史』(萌文書林)

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