鈴木治行

鈴木治行について

鈴木治行（すずき はるゆき、1962年2月16日 - ）は、東京都出身の現代音楽作曲家です。青山学院大学仏文科を卒業後、東京音楽大学や東京芸術大学で作曲を学び、南弘明に対位法を師事しました。1987年には「現代の音楽展」や仙台音楽祭に招待作曲家として参加し、1990年には若手作曲家グループTEMPUS NOVUMを結成しました。1995年には『二重の鍵』で入野賞を受賞、2000年には映画『M/OTHER』の音楽で毎日映画コンクール音楽賞を受賞するなど、多岐にわたる活動で高い評価を得ています。

反アカデミズムから大学教育へ

東京藝術大学出身ではなかったため、当初はアカデミックな音楽業界から距離を置いた存在と見なされていましたが、現在では大学で教鞭を執り、入野賞の審査員も担当するなど、その才能は広く認められています。

作風の特徴

鈴木治行の作風は、線的な素材を基盤としつつ、反復や引用といった手法を取り入れたユーモラスな音楽が特徴です。映画、美術など、さまざまなアートへの深い探求心が彼の作品に独特の個性を与えています。作品は大きく4つの傾向に分類されます。

(I) 反復

素材の反復操作を中心とした作品群です。電子音楽「システマティック・メタル」や「For Steve Reich」、クラリネットとオーボエのための「Hiccup」、ヴァイオリンとピアノのための「二重の鍵」などが代表例です。これらの作品では、ある素材を規則的に反復させ、その過程で調性をずらすなどの仕掛けを施し、聴覚的なバランスを崩すことで、音楽に独特の緊張感を生み出しています。この反復の際に「収まりの悪い半端なタイミング」を意図的に作り出す点が特徴で、直線的な流れを客観的に、時に暴力的に切断する手法は、鈴木の作品において重要な要素となっています。

(II) 句読点シリーズ

「関節はずし」や「脱臼」と表現される引用を多用したシリーズです。ソロ楽器のための作品群で、マイルス・デイビスやバッハなどの異質な素材を断続的に挿入し、音楽に楔を打ち込むことで、聴覚的なマンネリズムを回避しています。これらの素材は複数用意され、緻密に計算されたタイミングで組み込まれることで、聴覚上の新たな刺激を生み出しています。

(III) 語りもの

語りと複数の楽器、あるいは歌手によって演奏されるユニークな作品群です。「陥没ー分岐」や「伴走-齟齬」などが代表例です。これらの作品では、異なるスタイルの歌唱や演奏が同時進行し、語りが介入することで、従来の音楽観を揺さぶるような不可思議な音響空間が創造されます。それぞれの要素はばらばらに見えながらも、演奏者間の合図によって同期されるなど、特異な音楽的やり取りが展開されます。リュック・フェラーリやマルグリット・デュラスの影響を受けていると本人が語っています。

映画音楽

鈴木治行の映画音楽は、新作映画への音楽提供と、サイレント映画へのライブ演奏という二つの側面があります。ミシェル・シオンの映画音楽理論に影響を受け、映画に含まれる音響を音楽と同等に捉え、映像を徹底的に分析した上で、多様な音楽スタイルを駆使します。雑音やノイズを多用することもあれば、ロマンティックな旋律を用いることもあり、特定のスタイルにとらわれない自由な音楽表現が特徴です。サイレント映画へのライブ演奏では、『ノスフェラトゥ』や『裁かるゝジャンヌ』、『カメラを持った男』など、既存の伴奏付けとは異なる独自のアプローチがなされています。

その他の活動

個展、講義、演奏会・イベントの企画・プロデュース、執筆活動など、多岐にわたる活動を行っています。演劇、美術、映像など、他ジャンルとのコラボレーションも積極的に展開しています。東日本大震災後は、原発事故で避難を余儀なくされた人々のドキュメンタリー「フタバから遠くはなれて」や、在来作物の保護をテーマにした「よみがえりのレシピ」など、社会的なメッセージ性の強い作品にも携わっています。

参考文献

作曲フォーラム1999 鈴木治行の項
exMusica「自作を語る」
日本の作曲20世紀 鈴木治行の項
脱臼す、る時間: 鈴木治行, 川崎弘二; engine books
* WEBサイト＜音ヲ遊ブ＞掲載「今月の鈴木治行のすべて」

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