リュック・フェラーリ

リュック・フェラーリ（Luc Ferrari、1929年 2月5日 - 2005年 8月22日）は、フランス出身の独創的な作曲家です。特に電子音楽やテープ音楽、ミュージック・コンクレートの分野で重要な足跡を残し、環境音の積極的な活用を特徴とする独自の音楽言語を確立しました。彼の活動は音楽のみならず、ラジオドラマ（ヘールシュピール）、映画製作、ミクストメディア作品など多岐にわたり、後進のアーティストにも深い影響を与えています。

生涯とキャリア

パリに生まれたフェラーリは、幼少期から音楽教育を受けました。エコールノルマル音楽院ではアルフレッド・コルトーにピアノを、アルテュール・オネゲルに作曲を学び、その後、パリ国立高等音楽院でオリヴィエ・メシアンに楽曲分析を師事しました。これらの経験は、彼の幅広い音楽的素養の基盤となりました。1954年には渡米し、革新的な作曲家エドガー・ヴァレーズと出会ったことは、その後の音楽活動に大きな影響を与えたと考えられています。

1958年、フェラーリはピエール・シェフェール、ピエール・アンリらが設立した「GRMC（具象音楽研究グループ）」に参加し、1966年まで活動しました。同年にはシェフェールと共に「GRM（音楽研究集団）」の創設にも携わるなど、フランスにおける電子音楽・ミュージック・コンクレート研究の黎明期を支えました。

彼の創作活動は非常に幅広く、特に録音された環境音を用いたテープ音楽は彼の代名詞の一つです。1963年から1964年にかけて制作された《異型接合体 Hétérozygote》は、この手法の初期の代表例です。また、1967年から1970年にかけて完成した《ほとんど何もない第一「海岸の夜明け」 Presque rien No. 1 ‘Le Lever du jour au bord de la mer’ 》では、ユーゴスラビアの海岸で一日かけて録音した膨大な環境音素材を、わずか21分の作品に濃縮するという独特なアプローチを見せています。これは彼の「ほとんど何もない（Presque rien）」という美学を示す象徴的な作品となりました。

音楽作品以外にも、フェラーリは映像作品の制作にも積極的に関わりました。フランス国営放送探求局の下で、メシアンやカールハインツ・シュトックハウゼンといった現代音楽家のリハーサルを記録したドキュメンタリー「大いなるリハーサル」などを手掛けています。また、映画音楽の作曲家としても知られ、1982年のカンヌ国際映画祭に出品されたアニメーション映画「クロノポリス」や、1963年の同映画祭出品作であるジャック・ブリソ監督のドキュメンタリー「エジプト、おおエジプト2 - 河の贈り物」などに楽曲を提供しています。さらに、ヨーロッパを中心にラジオドラマの制作も行いました。

自身の活動拠点として、1972年には電子音響アトリエ「スタジオ・ビリッヒ」を設立。1982年には電子音響作曲とラジオアート制作のための協会「ラ・ミューズ・アン・シルキュイ（回路の詩神）」を立ち上げましたが、1994年にそこを離れました。1996年には新たな電子音響スタジオ「アトリエ・ポスト＝ビリッヒ」を設立するなど、晩年まで制作環境を整備し続けました。

彼の功績は高く評価され、1989年にはフランス政府から芸術文化勲章を受章しています。また、1995年にはオランダで大規模な回顧展が開催され、2001年にはアメリカ合衆国でのコンサートツアーも成功させるなど、国際的にもその名を知られました。彼はジャンルを超えた幅広いアーティストと積極的に共演し、多くの実験的な試みを行いました。

2005年 8月22日、演奏旅行中のイタリア、アレッツォにて惜しまれつつ逝去しました。

没後の活動と影響

フェラーリの逝去後、その膨大な作品と資料を後世に伝えるため、妻ブリュンヒルド＝マイヤー・フェラーリをはじめとする関係者により、2006年6月にパリで「アソシエーション・プレスク・リヤン（Presque Rien Association）」が設立されました。この協会は、彼の著作物の普及、遺された資料の整理、そして現代音楽創作への支援助成を目的としており、現在も活発に活動を続けています。

リュック・フェラーリは、アカデミズムからは一定の距離を置いていましたが、電子音楽や実験的なポピュラー音楽の分野で熱狂的に支持されました。その影響は日本を含む世界各地に及んでいます。

主な作品（一部）

器楽作品:
組曲、ピアノのための（1952）
未完成交響曲、大オーケストラのための（1963 - 1966）
快楽と悲嘆の物語（1979 - 1981）
電子音響作品:
トートロゴス1（1961）
サリスベリー・カクテル（2002）
テープ・ミュージック:
異型接合体（1963 - 1964）
ほとんど何もない第一あるいは海岸の夜明け（1967 - 1970）
インスタレーション:
音楽散歩（1964 - 1969）
ラジオ・ドラマ:
不気味に美しい（1971）
いま（1981 - 1982）
映画関連作品:
シャステル（1962、音楽提供）
クロノポリス（1982、音楽提供）
巡礼者たち（1960、共同監督）
少女たちあるいはソシエテⅢ（1967、監督）

受賞歴（一部）

ヴィザージュ4（1957 - 1958） - パリ・ビエンナーレ賞
肖像＝戯れ（1971） - 1972年度カール・シュッケ賞
1989年度文化大臣芸術文芸大賞
水から救われたアーカイヴ（2000） - 2005年度シャルル・クロス記念賞グランプリ

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