南弘明

南弘明は、1934年6月21日に生まれ、日本の電子音楽および現代音楽の分野で重要な足跡を残した作曲家です。東京藝術大学の名誉教授であり、教育者としても多くの才能を育成しました。

生い立ちと音楽の道

山口県で生まれた南弘明は、福岡県立八幡高等学校を卒業後、東京藝術大学音楽学部作曲科へ進学しました。その後、同大学の専攻科を修了し、ドイツのフライブルク音楽大学でヴォルフガング・フォルトナーに師事しました。この留学経験は、彼の音楽観を形成する上で大きな影響を与えたと言えるでしょう。

帰国後、南は東京音楽大学と東京藝術大学で教鞭を執り、後進の育成に尽力する傍ら、作曲家としての活動も精力的に行いました。特に電子音楽への関心は深く、5曲の「電子交響曲」を作曲するなど、この分野の発展に大きく貢献しました。また、1992年には日本電子音楽協会を設立し、日本の電子音楽シーンを牽引する役割も担いました。

合唱曲への情熱

南弘明は、電子音楽だけでなく、合唱曲の分野でも多くの作品を発表しています。大学在学中の1955年には、草野心平の詩による男声合唱のための組曲「蛙の歌」を作曲しており、この作品は彼の初期の代表作の一つと言えるでしょう。他にも、堀口大學の訳詩による男声合唱曲集「月下の一群」（第1集 - 第3集）、高田敏子の詩による混声合唱組曲「飛翔」など、数多くの合唱曲を作曲しました。これらの作品は、いずれも美しい旋律と豊かなハーモニーが特徴で、多くの合唱団によって愛唱されています。

受賞歴と主要作品

南弘明の業績は、数々の受賞歴にも裏付けられています。1956年には、第25回日本音楽コンクール作曲部門で第1位を受賞し、その才能を広く知らしめました。1968年には、国際現代音楽協会（ISCM）音楽祭〈世界音楽の日々〉に入選、1971年には芸術祭優秀賞を受賞するなど、国内外で高い評価を受けています。

彼の主要な作品としては、ソプラノと管弦楽のための「挽歌」、ピアノ協奏曲、ソプラノと管弦楽のための「七夕の歌」、シンセサイザーと管弦楽のための「オリオン」、そして「電子交響曲」（第1番 - 第5番）などが挙げられます。また、電子音と語りによる「蜘蛛の糸」や、男声合唱のための組曲「蛙の歌」、女声合唱組曲「蛇の花嫁」、混声合唱組曲「飛翔」など、様々なジャンルの作品を手がけています。

教育活動と著書

東京藝術大学を退官後、南弘明は故郷の山口県に戻りました。教育者としては、近藤譲、松下功、藤井一興、坪能克裕、山内雅弘、鈴木治行、鶴田睦夫、千住明、岩代太郎、中川善裕、吉田峰明、安川徹、斎藤ネコ、松尾早人など、多くの著名な作曲家や音楽家を育てました。

また、南は執筆活動も行っており、『和声 理論と実習』や『十二音による対位法』などの専門書を著しています。特に『和声 理論と実習』は、長年にわたって音楽学生の必読書として広く利用されています。また、南道子との共著『シューベルト作曲歌曲集冬の旅――対訳と分析』では、音楽学的な知見を深めることができるでしょう。

南弘明の音楽は、電子音楽の実験的な側面と、伝統的な音楽形式の美しさを融合させた独特の世界観を持っています。彼の作品は、現代音楽の発展に大きく貢献しただけでなく、多くの人々に感動を与え続けています。

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