鈴木石

鈴木石：日本の鉱物学に輝くエメラルドグリーンの宝石

1982年、日本の鉱物学に新たなページが刻まれました。群馬県茂倉沢鉱山で発見された、鮮やかなエメラルドグリーンの結晶――それが鈴木石です。国立科学博物館の鉱物学者、松原聰氏らのグループによる発見は、日本の鉱物研究史に大きな貢献を果たしました。

鈴木石の化学組成式はBaV⁴⁺Si₂O₇で、斜方晶系に属します。その名の由来は、北海道大学の故・鈴木醇博士への敬意から。鈴木博士の鉱床学・岩石学における顕著な功績を称え、この新鉱物が命名されました。

興味深いのは、鈴木石が同年に発見された別の新鉱物、原田石と密接に関連している点です。両鉱物は共にエメラルドグリーンの美しい結晶として産出し、その結晶構造も非常に似通っています。違いは化学組成にあり、原田石のストロンチウムが、鈴木石ではバリウムに置き換えられている点です。このように、化学組成の僅かな違いが、異なる鉱物を生み出すという、鉱物学の奥深さを垣間見ることができます。希少性も共通しており、どちらも鉱物愛好家にとって垂涎の的となっています。

さらに、鈴木石研究は近年、新たな展開を見せています。2019年には、カナダのユーコン準州で、鈴木石と非常に似た性質を持つ鉱物Bavsiiteが発見され、新種として記載されました。Bavsiiteは鈴木石の同質異像鉱物であり、化学組成や結晶構造において類似点が見られますが、微妙な差異も確認されています。この発見は、鈴木石の成因や地球化学的なプロセスについての理解を深める上で重要な手がかりとなります。同質異像という関係は、鉱物学において、同一の化学組成を持ちながら異なる結晶構造を持つ鉱物を指し、自然界の多様性を示す好例と言えます。

鈴木石の発見は、日本の鉱物学研究の進歩を示すだけでなく、国際的な鉱物学研究にも貢献しています。発見から現在に至るまで、多くの研究者が鈴木石の性質や成因を解明しようと努力を重ね、その研究成果は、地球科学や鉱物学の教科書にも掲載されるほどです。

今後も、鈴木石に関する研究は継続され、この希少で美しい鉱物が、私たちの地球の成り立ちや鉱物形成のプロセスを解き明かす鍵となる可能性を秘めています。その輝きは、日本の鉱物学、そして地球科学の未来を照らし続けるでしょう。

参考文献

* 松原聰「新鉱物発見物語」 鉱物にも体格がある－鈴木石、2006年、岩波書店。ISBN 4-00-007455-5

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